最新記事

バイデンvs中国

米中関係は「多次元方程式」に、日本外交のサバイバル戦略は?

JAPAN’S SURVIVAL PLAN

2021年1月29日(金)12時00分
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、元外交官)

安倍外交も菅外交も目指すべきところは同じ KIYOSHI OTA-POOL-REUTERS

<バイデン政権発足で多次元かつ重層的になる米中関係──菅政権が生き残るためにすべきことは両国間のバランス取りではない>

(本誌「バイデンvs中国」特集より)

中国がアメリカの「戦略的競争相手」の筆頭になって久しい。されど、バイデン新政権の対中政策に関する識者の見方は割れている。オバマ政権時代の苦い記憶からか、ジョー・バイデン新大統領は「中国に甘い」とみる向きもあるが、ちまたでは「米中の対立基調はトランプ政権時代と変わらない」とする声のほうが多いようだ。もちろん、こうした分析は一般論としては正しいのだが、実態はそれほど単純ではない。
20210126issue_cover200.jpg
対中「けんか腰」一辺倒だったトランプ政権時代とは異なり、バイデン政権の対中外交はより多次元かつ重層的である。トランプ時代の安全保障、経済・貿易に加え、協議の対象が人権や地球温暖化などにも拡大するからだ。さらにバイデン外交は、トランプ政権の「アメリカ第一主義」から、伝統的な「同盟国を重視する国際協調型」に回帰しつつある。

戦略的に見れば、米外交の焦点が「西から東へ」移るのは不可避であり、バイデン外交の優先順位もアジア・太平洋、欧州、中東となるはずだ。他方、従来の経緯もあり、アメリカの欧州・中東への関与は簡単には減らせない。しかも、バイデン自身の経験や、大西洋同盟重視の傾向などに鑑みれば、短期的には上述の優先順位が逆転する可能性も十分覚悟すべきである。

バイデン外交の最大の特徴は「内政と外交の一体化」だ。同政権関係者は「効果的な外交政策のためには国内中間層の信頼回復が不可欠」で、「中国と競争する」ためにはまず「国内経済の再活性化が必要」と主張している。バイデン時代もトランプ時代とは別の形で、アメリカの「内向き傾向」が続く可能性は高い。同盟国にとっては要注意だ。

一方、習近平(シー・チンピン)の長期政権が確実視される中国は米中の「覇権争い」に本気で勝利するつもりだろう。であれば、近い将来米中関係が劇的に改善する見込みはなく、貿易・安全保障・人権などの分野で対立は長期間続くと覚悟しているはずだ。当面は新政権との仕切り直しに全力を注ぐだろうが、アメリカに対し戦略的譲歩を行う可能性は低い。

既に中国は米側の懸念表明にもかかわらず、バイデン政権発足直前に欧州との投資協定締結で合意するなど、欧米離間を画策している。中国にはコロナ禍でも成長・拡大を続ける巨大な経済力と軍事力がある。習政権はこれを背景に、バイデン政権の人権外交を警戒しつつも、「温暖化問題」などでアメリカとの政治的取引を模索する可能性が高い。この点も同盟国にとっては要注意だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、緩和的金融政策を維持へ 経済リスクに対

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、12人死亡 北西部の軍学

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 7
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 8
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 9
    【クイズ】韓国でGoogleマップが機能しない「意外な…
  • 10
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中