最新記事

韓国

懲役20年の実刑確定、朴槿恵の恩赦は韓国の「国民統合」に資するのか?

2021年1月19日(火)18時30分
ミッチ・シン

懲役刑が確定した朴元大統領の処遇をめぐって革新系、保守系それぞれの思惑が交錯する KIM HONG-JI-REUTERS

<革新系の与党代表が、保守系政治家である朴や李明博元大統領の赦免を求める理由とは?>

1月14日、韓国大法院(最高裁)は、収賄や職権乱用の罪に問われた朴槿恵(パク・クネ)前大統領に対するソウル高裁の判決を支持。これで懲役20年の実刑と罰金の判決が確定した。

報道により朴をめぐる一連のスキャンダルが明るみに出たのは、2016年秋。それを受けて朴の退陣を求める大規模な抗議デモが巻き起こり、ついには2017年3月、国会の弾劾決議によって朴が大統領を罷免された。いわゆる「キャンドル革命」である。朴の失職に伴って実施された大統領選で当選したのが、現職の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だ。

実刑判決が確定した朴だが、もしかすると、早々に刑務所を出所できるかもしれない。

革新系の与党「共に民主党」の李洛淵(イ・ナギョン)代表は、現地メディアの新年インタビューで「適切な時期に(収賄で既に収監されている) 李明博(イ・ミョンバク)元大統領と朴の特別赦免(恩赦)を文に提案する」と述べた。赦免は「国民統合」の手段だとのことだった。朴と李は、「共に民主党」と対立する保守系の政治家だ。

この提案に対しては、与党内で反発の声が上がっている。李洛淵は、文の後任を選ぶ2022年大統領選を目指す有力候補の1人だ。大統領選で保守層の支持を広げる狙いでこの提案をしたのではないかとの見方もある。

文は以前、収賄罪で有罪判決を受けた人物への赦免を行わない意向を口にしていた。それに、文の支持者の多くは李と朴の赦免に強く反対している。状況が大きく変わらない限り、赦免の可能性は乏しいと、専門家は考えている。

一方、李政権と朴政権で与党だった保守政党を継承した最大野党の「国民の力」の内部でも、2人の赦免には賛否が分かれている。赦免により過去のスキャンダルが蒸し返されれば、4月に行われるソウルと釜山の両市長選で党に悪影響が及ぶのではないかと懸念する声もあるのだ。

「共に民主党」内で赦免に反対する人たちが指摘するのは、全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領のケースだ。軍事クーデターで権力を奪取し、1980~88年に大統領を務めた人物である。1980年5月、光州市で民主化を求めるデモが起きると、全はそれを武力弾圧した。この光州事件により、公式発表で200人近く、一説には2000人以上の死者が出たという。

1997年春、全は後任の大統領を務めた盧泰愚(ノ・テウ)と共に、クーデターや民主化弾圧、不正蓄財などで有罪判決が確定し、収監された。しかし、この年の12月、当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領は全と盧を赦免した。これは、このとき大統領選で当選して次期大統領に決まったばかりの金大中(キム・デジュン)の提案だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ビジネス

マスク氏のxAI、債務と株式で50億ドルずつ調達=

ワールド

米政府、資源開発資金の申請簡素化 判断迅速化へ

ワールド

訂正-セビリアで国連会議開幕、開発推進を表明 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中