最新記事

豪中関係

中国の挑発に乗ったオーストラリア首相、謝罪を要求すべきではなかった

The China-Australia Twitter War

2020年12月7日(月)10時05分
レイチェル・ウィザース

強硬姿勢でかえって不都合な真実が注目を浴びたモリソン首相 ISSEI KATO-REUTERS

<中国の「戦狼外交官」がツイッターに、オーストラリア兵の偽写真を投稿。モリソン首相はむきになって非難したが、中国の仕掛けた罠にはまったも同然だ。中国の人権無視は誰もが知っている。だがモリソンが過剰反応したせいで、世界の多くの人が知ってしまったことがある>

かけがえのない貿易相手だが人権無視で悪名高い大国から、あろうことか自分の国の恥ずべき(できれば隠しておきたい)人権侵害について偽善的かつ派手なツイッター攻撃を受けたら、その国の指導者はどう対応すべきか。

①水面下で遺憾の意を表明する一方、諸外国の首脳には問題の投稿の削除を要請し、嵐が過ぎ去るのを待つ。

②当該国の行為を「不快」で「攻撃的」と決め付け、公式の謝罪を強く要求する。

③ツイッターで反撃し、当該国のもっと卑劣な人権侵害に関する画像をアップする。

②または③を選んだあなたは、オーストラリアのスコット・モリソン首相の同類ということになる。

11月末、中国外務省の趙立堅(チャオ・リーチエン)報道官がツイッターに、衝撃的な合成写真を投稿した。オーストラリア兵が、子供の喉元にナイフを突き付けているように見える画像で、キャプションには「怖がらなくていいぞ、われわれは平和をもたらすために来た」とある。

アフガニスタンに派遣されたオーストラリア軍の戦争犯罪に関する最新の報告書をネタにした、悪質かつ挑発的な投稿である。「衝撃だ、......わが国はこうした行為を強く非難し、厳正な処罰を求めていく」。趙はそうツイートしていた。

問題の報告書は、豪兵による39件の違法な殺害行為とその隠蔽を認定しており、既に同国内に大きな衝撃を与えていた。殺害を正当化するため遺体に武器を持たせるなどの偽装工作も報告されている。

趙が投稿した画像は、タリバンの協力者と見なされた14歳の少年の喉を兵士が切り裂いたという凄惨な殺人の疑惑を基に、烏合麒麟(ウーホーチーリン)と名乗る愛国的CGアーティストが作成したものとされる。

この報告書は第三者機関が作成したもので、既にオーストラリア政府は一連の行為が戦争犯罪に当たるか調べるため、特別捜査官も任命している。つまり、趙に言われるまでもなく「厳正な処罰」を下そうとしているわけだ。

しかしモリソンはむきになって趙の投稿を非難し、削除を要求した。さらに「中国政府はこんな投稿を恥ずべきだ」と述べ、中国の非人道的な行為にも世界は目を光らせているぞと警告した。

中国の術中にはまった

当然のことながら、中国側は一歩も引かず、恥ずべきはオーストラリアだと反論している。外務省報道官の華春瑩(ホア・チュンイン)は会見で、オーストラリアこそきちんと反省し、アフガニスタン国民に謝罪すべきだと主張した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾンなど3社の株主、米移民政策の影響開示を要請

ビジネス

仏経済、26年上半期は0.3%成長へ 消費安定=I

ビジネス

アングル:フォードのEV撤退、政策転換と需要減の二

ワールド

高市首相の解散判断「容認」、議員定数削減前でも=吉
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中