最新記事

中東

サウジアラビア、バイデン政権に備えムスリム同胞団の弾圧急ぐ

2020年11月25日(水)10時17分

サウジアラビアがイスラム組織、ムスリム同胞団への弾劾運動を再開している。写真はサウジのムハンマド皇太子。リヤドで2019年12月撮影。サウジ王室提供(2020年 ロイター)

サウジアラビアがイスラム組織、ムスリム同胞団への弾劾運動を再開している。米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領は、トランプ米大統領に比べてサウジ現政権への友好姿勢を後退させる公算が大きいため、今のうちに王室を脅かしかねない勢力に手を打っておく狙いだ。

サウジでは過去2週間、政府当局者、宗教学者、国営メディアがこぞって、ムスリム同胞団は造反の種をまき、国家の統治者に対する不従順を呼びかける集団だと警告。同胞団のメンバーを当局に通報するよう国民に促している。

こうした激しい非難の背景には、バイデン米次期政権が現政権よりも、独裁君主体制を敷くサウジ王室の人権抑圧を厳しく監視する一方で、平和的なイスラム活動には寛容な姿勢を示すとの懸念があると、専門家はみている。

今回の弾劾運動が始まって以来、当局による拘束者が出たかどうかは不明だ。サウジ政府は運動についてのコメント要請に応じていない。

ムスリム同胞団は今月、バイデン氏の勝利に歓迎の意を示すとともに、サウジ政府から向けられている非難の内容を否定した。同胞団のエジプト支部は17日、「グループは暴力やテロリズムとはかけ離れており、むしろ独裁者による恐怖政治の犠牲者だ」と述べた。

同胞団は米次期政権に対し、「独裁体制を支援する」政策を見直すよう求めた。

王室の支配体制

サウジ政府はムスリム同胞団について、思想的に政府と対立する勢力であり、選挙制度を支持するなどの政治活動を進めて、王室の支配体制を直接的に脅かしていると見なしている。

90年以上前にエジプトで創設された同胞団は、国内で度重なる弾圧を生き抜き、中東全域の他の政治運動に影響を及ぼしてきた。

2013年にエジプトのシシ現大統領が当時のモルシ大統領をクーデターで倒した際、同胞団は同国で地下に潜入した。

サウジでは、過去に活動家や一部の聖職者が同胞団に関連した組織を複数設立したが、これらは禁じられ、大半のメンバーは収監された。

サウジとアラブ首長国連邦、バーレーン、エジプトの各国は同胞団をテロ組織に認定し、何年も前から米政府にも同様の認定を行うよう働きかけてきた。

関係見直し

バイデン氏は既に、サウジ政府との関係を見直すと約束。サウジ人記者ジャマル・カショギ氏が2018年、トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館でサウジ当局者らに殺害された事件についてもっと丁寧な説明を要求しているほか、米国はイエメン内戦を巡るサウジへの軍事支援をやめるべきだと訴えてきた。カショギ氏はサウジのメディアから、同胞団の一員だと非難されていた人物だ。

最高権力者ムハンマド皇太子とトランプ米大統領との関係が、国際的な批判に対する緩衝材の役割を果たしてきた。カショギ氏殺害に加え、女性活動家、知識人、聖職者、ジャーナリストなど数十人を拘束した事件以来、皇太子は人権抑圧を巡って世界から厳しい視線を浴びるようになった。

サウジアラビアのイスラム教最高権威、アブドルアジズ・シェイフ師は16日、同胞団を「イスラム教とは何の関係もない」、「逸脱した集団」だと述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの体制崩壊も視野 「脅威取り除

ワールド

トランプ氏、イスラエルとイランの停戦合意を期待

ビジネス

仏ルノーCEOが退任へ、グッチ所有企業のトップに

ワールド

トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中