最新記事

中国

「習近平vs.李克強の権力闘争」という夢物語_その1

2020年9月1日(火)18時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

中国人民政治協商会議 第13期第3回会議における習近平国家主席と李克強国務院総理(2018年3月3日) Jason Lee-REUTERS

巷では、習近平と李克強が権力闘争をしていると主張したがるチャイナ・ウォッチャーが多い。中国政治の仕組みも真相も知らないためか、ますます主張が過激になっている。それは日本の国益に適わない。夢物語を斬る!

権力闘争論者が証拠として挙げる事例

権力闘争論者が証拠として挙げる事実には以下のようなものがある。

1.5月28日、全人代閉幕後の記者会見で、李克強国務院総理(首相)が「露店経済」を推奨したが、すぐに北京などのメディアによって否定された。習近平路線に反する言動を勝手にやった。

2.同じ記者会見で李克強は「中国には月収1000元に満たない者が6億人以上いる」と言ったが、これは習近平が目指す「小康社会」を真っ向から否定している。習近平が公にしたくない話を勝手に暴露した。

3.習近平は今年7月21日に企業家座談会を開催したが、そこには李克強が出席していなかった。これは李克強外し以外の何ものでもない。

4.今年8月に李克強が重慶の水害に関して視察に行ったが、中国の主要メディアはそれを無視して報道しなかった。習近平が安徽省を視察したことは大きく報道した。これは主要メディアを掌握している習近平が李克強を無視するように仕向けた結果で、「習近平vs.李克強の権力闘争」が極まった動かぬ証拠だ。

少なくとも上記4つの事実に関して、それがいかに「夢物語」であるかを一つずつ示そうと思う。ただあまりの長文になるので、「1と2」に関しては「その1」で、「3と4」に関しては「その2」で解説する。

1.露天商発言に関して

李克強は記者会見で「西部のある都市で、露店を開いたら一晩で10万人が就業できた」として中国日報社の質問に答えた。日本の権力闘争論者は、「習近平の了承も得ずに禁止されている露天商を推薦したのは習近平への反乱だ」という趣旨の主張をしている。だから習近平は李克強潰しにかかっているという「筋立て」である。

しかし、実は中国共産党中央委員会(中共中央)が管轄する中央文明弁(中央精神文明建設指導委員会弁公室)が会議を開いて、露天商を制限しないと決議したことを5月27日に発表している。この決議は即座に中央テレビ局CCTVでも盛んに報道され、翌日の李克強の記者会見における回答がすでに準備されていたことを示唆している。このことは北京の「新京報」など多くのメディアが伝えていた。

但し、中国経済の構造が積み上げてきた結果として、露店が許可されるのは中国で言うところの第三線都市か第四線都市あたりが多く、北京市や上海市などの第一線都市ではそもそも勧められていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃

ビジネス

中国製リチウム電池需要、来年初めに失速へ 乗用車協

ビジネス

加州高速鉄道計画、補助金なしで続行へ 政権への訴訟
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中