最新記事

プロバガンダ

北朝鮮国営メディアがイメチェン 台風被害の実況やネット発信

2020年9月4日(金)17時50分

北朝鮮の広報用YouTubeチャンネル「Echo of Truth」より。Echo of Truth / YouTube

ここ1週間で2つの台風に襲われた北朝鮮で、国営テレビが異例なことに外国の放送を思わせる報道を繰り広げている。あふれ出た水に記者が膝までつかりながら、ほぼリアルタイムで状況を伝えているのだ。

アナリストによると、孤立したこの国にも国際メディアが浸透して競争が激化。こうした状況を前に、国のプロパガンダ機関であるメディアがゆっくりと進化している。最新の実例が3日の放送だった。

テレビ放送が夜通しで行われるのも画期的で、記者とキャスターは国内の各地に飛び、風雨にさらされながら大声で最新の状況を伝えた。

おそらく台本なしで行われた実況中継は、朝鮮中央テレビ(KCTV)ではめったに見られない瞬間だった。雨でびしょ濡れの記者が、中継の最中、傘を手渡そうとしてきた男性をすげなくかわす光景まであった。

北朝鮮問題専門の米シンクタンク「38ノース」のマーティン・ウィリアムズ氏は「朝鮮中央テレビとしては、驚くほど迅速かつ正直な放送だ。こんなのは今まで見たことがない」と言う。

金正恩・朝鮮労働党委員長は先週、台風被害の拡大を防ぐため、一層尽力するよう呼び掛けており、ウィリアムズ氏によると、今回の放送は、ほぼ確実にトップダウンで反応した結果だ。

「必要な検閲と承認が何層も複雑に重なっているため、かなり上層部の承認が無ければこうした放送はできない」と分析する。

進化するメディア

米政府でかつて北朝鮮アナリストを務めていた女性は、問題を隠そうとするのではなく、透明性を高めて解決しようとする金氏の方針が、今回の放送に反映されていると指摘。「北朝鮮のメディアにとって、自然災害による被害は常に、非常にセンシティブなテーマだった。洪水に見舞われた場所から、ほぼリアルタイムの報道を流すことは考えられなかった」と話した。

金氏の現政治体制が始まった当初から、北朝鮮のテレビはスタイルやフォーマット面でさまざまな実験を行ってきた。若い世代をニュースキャスターに起用する、ニュースでグラフなど図画を多用する、韓国の娯楽ショーをまねるといった試みだ。

前出の元北朝鮮アナリストは「金正恩氏は早い段階から、韓国その他の外国から押し寄せるメディア・娯楽コンテンツと競うため、KCTVは時代に追いつく必要があることを理解していた。KCTVが近代化に励んでいるのはそのためだ」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「金は関税の対象にならず」、懸念払しょく

ワールド

欧州首脳、米ロ首脳会談控え13日にトランプ氏と協議

ワールド

ゼレンスキー氏「ロシアに戦争終結の用意ない」、制裁

ワールド

ロ・ウクライナ、和平へ「領土交換」必要 プーチン氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入する切実な理由
  • 2
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客を30分間も足止めした「予想外の犯人」にネット騒然
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 7
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 8
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    「古い火力発電所をデータセンターに転換」構想がWin…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 9
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中