最新記事

感染症対策

中国・ロシアのスピード開発コロナワクチンは「普通の風邪」ベース 効果は7割未満との指摘も

2020年9月6日(日)19時06分

中国とロシアでそれぞれ開発されて世界に広く知られるようになった新型コロナウイルスのワクチンには1つの共通項が存在する。写真はワクチンのイメージ画像。4月撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

中国とロシアでそれぞれ開発されて世界に広く知られるようになった新型コロナウイルスのワクチンには1つの共通項が存在する。不十分な効果しか得られない可能性だ。どちらの国のワクチンも、ごく普通の風邪のウイルスをベースに作成されている。多くの人が感染した可能性のあるワクチンだ。これが効果を限定的にしてしまう恐れがあると専門家は指摘する。

効果は7割に届かない、との指摘も

中国人民解放軍のみに使用が承認されたカンシノ・バイオロジクス(康希諾生物股分公司)のワクチンは、ヒトアデノウイルス5型(Ad5)の遺伝子組み換え操作によるものだ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは先週、同社が大規模臨床試験を完了する前に、幾つかの国と緊急使用許可を得るための話し合いを行っていると伝えた。

ロシア政府が8月、ごく限られた試験だけで承認したガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センターのワクチンは、Ad5と、もう1つの、よりマイナーなアデノウイルスに由来する。

米ジョンズ・ホプキンス大学のワクチン研究者アナ・ダービン氏は「Ad5はすでに多くの人が免疫を持っているという単純な理由で、効果が気掛かりだ。中国やロシアの戦略がよく分からない。効果の程度は多分70%に届かないだろうし、40%かもしれない」と語り、何か別のワクチンが登場するまで何もないよりはまし、という理屈だろうかと首をかしげる。

ガマレヤ研究センターは、2種類のアデノウイルス由来というワクチン手法によって、Ad5の免疫を巡る問題は解決されるとの立場だ。

カンシノとガマレヤ研究センターはいずれもコメント要請に応じなかった。双方の研究者は、エボラ出血熱に対してAd5由来のワクチンを開発した経験を持つ。

標的のウイルス誤る懸念も

過去数十年を振り返ると、さまざまな感染症向けにAd5由来のワクチン投与実験が試みられてきた。ただ幅広く使われたケースはない。ワクチンは、遺伝子組み換え操作で無害化したAd5ウイルスが「ベクター(運搬者)」となって、標的のウイルス、つまり今回は新型コロナウイルスが持つ遺伝子を体内細胞に運び込んでしまい、実際の新型コロナウイルスが攻撃してきたとき、免疫反応を起こさせるという仕組みだ。

ところが多くの人は既にAd5への抗体を持っているので、免疫システムは標的のウイルスではなく、このベクターを攻撃してしまい、肝心の効果を弱めかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中