最新記事

テロ

インドネシア、イスラム教カリスマ指導者襲撃される 刃物で負傷、犯行の背景にあるものは

2020年9月15日(火)19時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)

イスラム教のカリスマ指導者シェ・アリ・ジャベル師が襲われた瞬間の映像 KOMPASTV / YouTube

<テロが多い国でも、イスラム教指導者が襲われるのは異例中の異例>

インドネシアのイスラム教指導者でカリスマ的存在である著名なウラマ(法学者)が9月13日、公開の場で行われていたイスラム教のイベントで壇上に駆け上がった若者に刃物で襲われ負傷する事件が起きた。

イスラム教指導者が公衆の面前で刺されるという異例の事件に政府、イスラム教組織などが素早く批判と事件の真相解明を治安当局に求める事態となり、折からのコロナ禍で頭を抱える政府にさらに頭の痛い事件となっている。

事件は9月13日午後5時20分頃、スマトラ島南部ランプン州の州都バンダル・ランプン市内で開催されていたイスラム教の行事で発生。壇上に座っていたカリスマ的指導者の一人として著名なシェ・アリ・ジャベル師(44)が、駆け上がってきた若者に刃物で襲われた。シェ・アリ師は右上腕部を刺され直ちに病院に運ばれて治療を受け、深さ約4センチの傷を負ったが命には別条はなく、容疑者もその場で取り押さえられ、逮捕された。

容疑者は24歳の若者、背後関係不明

ランプン州警察によると逮捕されたのはアルフィン・アンドリアン容疑者(24)で現在犯行動機について取り調べが進んでいる。同警察が地元マスコミなどに明らかにしたところによると、アンドリアン容疑者の家族から「同容疑者が以前精神的に不安定なことによる通院歴がある」との申し出があり、犯行は通常の判断ができなかった精神的問題に起因するものだとの主張があったという。

しかし同警察ではアンドリアン容疑者の犯行時の精神状態について独自に専門家による鑑定・診察をするとして、それ以外の犯行動機の可能性も視野に入れて広く捜査しているとしている。

一部ではアンドリアン容疑者とインドネシアのテロ組織との関係や中東のテロ組織「イスラム国(IS)」とのつながりを示唆する情報も出ているが、現時点でそうした組織的な背景の存在を示す明らかな証拠や情報はない、と治安当局はしている。

襲撃場面がSNSで全国に拡散

シェ・アリ師が壇上で襲撃される様子は動画で撮影されていて、直後からネットなどを通じて拡散した。壇上の椅子に座るシェ・アリ師の右側から突然容疑者が壇上に駆け上がって飛びかかりシェ・アリ師の右上腕部を手にした刃物で差す様子、そして被害に遭ったシェ・アリ師が立ち上がって容疑者に向かおうとする直後に周辺にいた人々が容疑者を取り押さえて殴る蹴るしている模様が異なるアングルからとらえられて映っている。インドネシア人の多くがこうした衝撃的な映像を目にしたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中