最新記事

中東和平

イスラエル・UAE国交正常化が「究極のディール」の成果にしては貧弱な訳

2020年8月17日(月)19時15分
ジョシュア・キーティング

トランプの手柄?(UAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子と、2017年) KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<「平和に向けた一歩」どころか、むしろ武力紛争に陥る可能性を高めかねない合意か>

いろいろと条件付きではあるのだが、取りあえずイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の突然の国交正常化合意は歴史的な節目と言っていいだろう。

イスラエルが湾岸諸国と外交関係を結んだことはなかったし、こうした正常化はイスラエルとアメリカの歴代政権が目指してきたものだ。

今回の国交正常化は、トランプ米大統領が8月13日にツイッターで発表した。この合意にアメリカが果たした役割はまだ明らかではないが、トランプにとっては珍しい外交の勝利だ。

ツイッターに投稿された共同声明には、イランへの言及がない。だが今回の合意の背景に、対イラン包囲網を強化するという狙いがあるのは間違いない。「関係正常化の助産師役を果たしたイランに祝福を」と、カーネギー国際平和財団のカリーム・サジャドプールは辛辣なツイートを投稿した。

トランプ政権の対イラン戦略は、実質的な政権交代を目指すものだ。ポンペオ米国務長官はツイッターで「平和に向けた一歩」と評したが、むしろ武力紛争に陥る可能性を高めかねない合意だ。

今回の発表は、周知の事実を公式に宣言したようなものだ。イスラム教スンニ派諸国は表向きにはイスラエルを非難するが、イランとの地域紛争では暗黙の同盟関係にある。

2017年にリークされた電文によると、イスラエル外務省はサウジアラビアのイラン批判に同調することを外交官に奨励していた。イスラエル政府がYouTubeに昨年投稿した動画には、国際会議でアラブ3カ国の外相がイスラエルを擁護する一方、イランを批判する姿があった。

だが共通の敵を持つことと、友好関係を認めることは別ものだ。今年6月にイスラエルが新型コロナウイルス対策でUAEと協力関係を結んだと発表すると、すぐにUAE側は民間の企業間協力にすぎないと横やりを入れた。

もしイスラエルが7月にパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の一部併合を強行していたら、今回の合意は実現しなかっただろう。UAEのユセフ・アル・オタイバ駐米大使は6月、イスラエル紙にヘブライ語で異例の寄稿を行い、西岸の併合を強行すれば両国間の関係改善が後退すると警告した。今回の共同声明には「トランプ大統領の要請により......イスラエルは大統領の平和ビジョンに示された地域に対する主権宣言を一時停止する」という一節がある。

【関連記事】イスラエルの「ヨルダン川西岸併合」は当然の権利か、危険すぎる暴挙か【対論】
【関連記事】【レバノン大爆発】日頃の戦争を上回る最大の悲劇に団結する中東諸国

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中