最新記事

米中対立

トランプTikTok禁止令とTikTokの正体

2020年8月10日(月)08時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

10代そこらのTikTokユーザーに「遊ばれてしまった」という腹立たしさと、TikTokがアメリカ社会に与えるかもしれない「威力」を思い知らされたに違いない。

こうして大統領署名という米中対立を本格化する動きへと発展していった側面は否めない。

TikTok創設者はアメリカ絶賛型の「売国奴」として非難を受けてきた

2017年11月9日、TikTokの運営会社であるバイトダンスは、アメリカの10代をターゲットにした人気のソーシャルメディアプラットフォームを所有するmusical.lyを買収し、これを母体にアメリカのTikTokサービスを提供し始めた。

その際、TikTokの創設者である張一鳴はアメリカの信頼を得るために、涙ぐましいほどの努力をしてきたとのこと。その努力は中国国内で批判を浴び、売国奴と言われているくらいなのだが、それはあまり意味がなかったことになるとthe Atlanticが"Why America Is Afraid of TikTok(アメリカはなぜTikTokを恐れるのか)"というタイトルで報道している。サブタイトルには「創業者(張一鳴)はインタビューで(TikTokは)世界を見る"窓"になってほしい」と語っているが、共和党の上院議員は"トロイの木馬"だと言っている」とある。

では張一鳴はどんな努力をしたのか、the Atlanticの解説とともに、その概略だけ列挙してみよう。

●今年3月、TikTokは、ホーリー米上院議員などによるTikTokへのいじめを処理するために、ワシントンの政治ロビイストとしてコネのあるマイケル・ベッカーマン氏を雇用し、学識経験者やその他の専門家による諮問委員会を設立して、アプリのコンテンツをどのように審査するかについてTikTokの指導に当たってもらった。

●今年5月には、当時ディズニーの最高経営責任者だったケビン・メイヤーにTikTokの新最高経営責任者兼バイトダンスの最高執行責任者に就任してもらった。

●メイヤーらを加えたのは、「バイトダンスは、信頼できるアメリカ人の顔を、この中国企業にぶら下げようとしているためだ」と業界内からは非難されている。

●張一鳴によるこれら一連の努力は、ワシントンのタカ派をなだめることには成功していないようだ。この件についてホーリー上院議員と話をした時に、彼は張の顔芸を「ばかげている」とあざ笑い、「彼らは中国に拠点を置く会社だ。それが全てだ」と付け加えた。

●実際上、どこにサーバーを置こうとも、何人のアメリカ人エリートを採用しようとも、また管理職をどう組織したとしても、張一鳴一人だけの努力では中国に対するアメリカの信頼を再建することなどできない。なぜなら、中国の台頭に断固として反対することが、アメリカの左翼と右翼が今、唯一合意できることかもしれないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中