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朝鮮半島

脱北者、北に逃げる。物語で描かれないその素顔

2020年8月7日(金)21時40分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

映画ではサスペンスや悲劇の主人公だが......

脱北者とは、韓国人にとってどのような存在なのだろうか?これまでに、韓国では脱北者を描いた映画やドラマはたくさん存在する。第81回米国アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表作品に選ばれた『クロッシング』、南北軍事境界線専門の危ない運び屋を描いた『プンサンケ』、妻子を殺された男が脱北し犯人を追い詰めるも自ら殺人の容疑者となってしまう『サスペクト 哀しき容疑者』、韓国への亡命によって離れ離れになってしまった男女の物語『約束』などが有名だろう。日本でもリメイクされたドラマ『カインとアベル』では、主人公が記憶喪失になった後脱北者に助けられ、その後自身も脱北者として生活する設定だ。

同じく北朝鮮がらみと言えば、韓国へ送り込まれてきたスパイ映画も多いが、こちらはギャグや南北のカルチャーショックなどのコメディー要素が入っているものが多い。しかし、脱北者となると、やはりサスペンスや悲劇的な要素が含まれる作品が多いようだ。

秘密のベールを脱ぎバラエティに出演する者も

ところが、テレビのバラエティ番組では、北朝鮮出身という秘密のベールを容赦なくひっぺがす、楽しく笑いに満ちた脱北者が登場するものがたくさん存在する。以前、脱北者の女性たちを集め、北朝鮮の知られざる日常生活にスポットを当てたトーク番組『いま会いに行きます(이제만나러갑니다)』が韓国で大ヒットした。

以前、友人の韓国男性が「北朝鮮女子はきれいな人が多い」と言っていたが、そのイメージも後押しして出演女性たちもお茶の間の人気者になった。その後、韓国男子と脱北女子の仮想恋愛バラエティ『愛情統一 南男北女(애정통일 남남북녀)』も北朝鮮出身女子人気に拍車をかけた。さらに、2015年から現在も放送中の脱北男女を交えたトークショー『モランボンクラブ(모란봉 클럽)』も脱北者を身近な存在として親しみがもてるように構成されている。

脱北系ユーチューバーも存在するが、脱北をテーマにしたユーチューブ番組『(ベナ)배나TV』も注目の的だ。その内容は、『脱北2世のVlog』『韓国入国2ヶ月、入国したての青年とトークショー』『韓国から送られる物資ではこれは人気!』など、ユーチューブらしくもあり独特な配信内容が人気の理由だ。

筆者も以前、韓国のこのような番組の存在を知らなかった頃は、脱北者は身を隠すように、ひっそりと周りに溶け込みながら暮らしているのかと思っていたが、脱北者がバラエティ番組に登場している姿を見てから、すっかり印象が変わってしまった。

しかし、今後もキム氏のような越北者が現れると、スパイの可能性を疑われたり、韓国で何かトラブルを起こしても北に戻ればいいと考えている印象が付いてしまい、本当に助けを求めて脱北しようとしている人たちをサポートすることが難しくなる可能性がある。そうなってしまわないように今後、より一層調査やケアするシステムを改良してほしいものだ。


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