zzzzz

最新記事

インタビュー

「正しさ」から生まれた「悪」を直視する──哲学者・古賀徹と考える「理性と暴力の関係」

2020年7月30日(木)16時40分
Torus(トーラス)by ABEJA

Koga_10.jpg

古賀:大学の授業でも「問題を設定し、これについて論じよ」というレポートを課題に出すことがあります。すると、問題について徹底的に考えることなしに、レポートの末尾に「議論を続けていくことが大切だ」「問題への認識を深めることが第一歩だ」と新聞社説書式にはめこんだようなまとめ方をする学生がたくさんいます。「議論することが大事というのなら、いま・ここで具体的に議論しろ」と思うのですが、そう締めくくって逃げてしまうんですよ。

キツイからテンプレで逃げる。それは学生だけではなく、僕だってそうだし、学問もマスメディアもそう。ただ、マスメディアがテンプレ化することで社会や人々に与える影響には、すさまじいものがあると感じています。

──自分の視点が崩れる様を伝えるとは、つまり「自分の言葉で語れ」と?

古賀:そう。そうやって本来、言葉は人間の中から湧き出てくるんですよ。いまそこにあるものを伝えるために、自分のオリジナルな言葉を発さなければいけない。だけど「言葉にされたもの」なんて常に疑わしいわけです。だからさらに言葉を加えていくしかない。

テクノロジーもこの自己反省の姿勢がないと、自己方法化します。報道のテンプレ化と一緒で、自分が作った方法そのものを反復するようになっていってしまうからです。

「言論の自由」は、なぜ「自由」なのか

Koga_11.jpg

──「問いが必要」「現状に疑問を持つ」などと書かれている啓発本をよく見ます。それ自体はその通りなのですが、実行するとなるといろんな意味で「乱れ」が生じますよね。

古賀:その言い方もテンプレ化していますよね。でもやっぱりそうなんですよ。ものごとが決まりかけたときに「でもやっぱり...」と誰かが言い出すってめんどくさい。決定権のない人たちがいろいろ言っても現実は変わらないことが多い。法律でもなんでも、何かが決まっていくとき、様々な声が上がりながらも、だいたいは押し切られて決まっていく。

では声を上げても無力なのか、というと全くそんなことはない。それは確実に「効く」のです。

こんなことを最近よく考えます。「言論の自由」というけれど、なぜ「自由」なのか。責任がないからなんですよね。現実を直接変える必要がないから。現実を変えることに無力だから、好き勝手なことを言えるわけです。言うことを現実に直結させる権力者は、自分の言うことに責任を持たなければならない。となると、自由にものなんて言えなくなるわけです。これに対して、決定権を持たない人の言論の無責任さは、間接的に現実に「効く」。

ものごとの決定に直接は関わらないけれど、何かを言うことで別の可能性を「栄養」のようなかたちで養っておく。それもまた、現実をある仕方で確実に変えていくんですよ。

これを技術におきかえると、技術がものごとを現実化する力を持つとしたら、技術への批評や評論は、間接的ではありながら、そこに大きな影響を与えていく、と思うんですよね。

米軍ハウスを作り直して暮らすわけ

Koga_13.jpg

古賀:僕は今、米軍ハウスをリノベーションして暮らしています。この一帯は戦前、飛行場だったのですが、戦後は米軍の空軍基地(キャンプ・ハカタ)として収用されました。その周りに米兵用の家が建てられたんですね。

20年ほど、建築や造園関連の学科に所属していたのですが、建築にうんざりするようになりました。そこに創造性がないと思ったんです。有名な建築家の建物を見ても心に響かないし、むしろ圧迫を感じます。「作ってやったぜ、オレが、すごいだろ」みたいな。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界

ワールド

イスラエル、新休戦案を提示 米大統領が発表 ハマス

ビジネス

米国株式市場=ダウ急反発、574ドル高 インフレ指

ワールド

共和党員の10%、トランプ氏への投票意思が低下=ロ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    F-16はまだか?スウェーデン製グリペン戦闘機の引き渡しも一時停止に

  • 2

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 3

    インドで「性暴力を受けた」、旅行者の告発が相次ぐ...なぜ多くの被害者は「泣き寝入り」になるのか?

  • 4

    「人間の密輸」に手を染める10代がアメリカで急増...…

  • 5

    「ポリコレ」ディズニーに猛反発...保守派が制作する…

  • 6

    「集中力続かない」「ミスが増えた」...メンタル不調…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 9

    34罪状すべてで...トランプに有罪評決、不倫口止め裁…

  • 10

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中