新型コロナのパンデミックで出稼ぎ労働者排斥 アラブ経済の未来に影

新型コロナウイルスで湾岸諸国の経済活動は停滞し、この地域を支える外国人出稼ぎ労働者は居場所をなくしつつある。写真は失業した外国人労働者。5月7日、サウジアラビアのリヤドで撮影(2020年 ロイター/Ahmed Yosri)
サウジアラビアで人気のテレビ司会者ハレド・アル・オケイリー氏は、「国内労働者よりも外国人労働者を一時解雇することは民間企業の国家的な義務である」と発言し、国内労働人口の多くを出稼ぎ労働者が占めていることに「現実的な危険」があると警告した。
毎日出演するトークショーでオケイリー氏が発したコメントは、中東の湾岸諸国経済の屋台骨となっている外国人労働者3500万人が直面するジレンマをずばり言い当てている。新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格暴落を背景に企業が人員を削減し、各国政府が自国民の雇用・賃金を守ろうと動くなかで、彼らは湾岸諸国にとどまるべきなのか、帰国すべきなのか。
国際労働期間(ILO)は具体的な数字は示さないながらも、2008─09年の金融危機や、湾岸諸国の主力輸出品である原油の価格が急落した2014─15年にときよりも、外国人労働者の出国が多くなるものと予想している。
たとえばオマーン。金融危機を受けた2010年に外国人労働者は34万人以上減少した。世界銀行のデータによれば、この年オマーンの経済成長率は1.3ポイント低下している。
今回、湾岸諸国は外国人労働者を帰国させる手段を用意しようと試みているものの、多くはセーフティネットもないまま足止めを食らっている。
この地域にある各国の大使館などのデータによれば、アジア系を中心に、数十万人の移民労働者がすでに帰国に向けた申請を済ませている。湾岸諸国では、過密状態の地域で生活する低所得の外国人労働者のあいだで新型コロナウイルスの感染が広がっている。
「とどまる意味がない」
パキスタンとインドは、すでに湾岸諸国から自国民を退避させる動きを始めた。エジプトはクウェートから航空機で自国民を帰還させようとしている。クウェートでは不法在留者収容施設でエジプト出身者による暴動が発生、治安部隊が鎮圧した。
ILOの上級専門家リスザード・チョルウィンスキー氏は、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールから出国する外国人労働者が「非常に多くなる可能性がある」と話す。
UAEで帰国申請を済ませたパキスタン人は6万人。その1人であるファーマンさんは2カ月前、スクールバスの運転手という職を失った。新型コロナの封じ込め措置として、複数の教育センターが閉鎖されたためだ。
ドバイのアル・クオズ工業地区にある共同住宅の前、街灯にぼんやりと照らされた通りに立つファーマンさんは、「自分の国に帰りたい。仕事もないのにこの国にとどまる意味はないから」と話す。
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