最新記事

メディア

大手民放が放送停止、ラジオ局キャスター射殺 報道の危機強まるフィリピン

2020年5月8日(金)19時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

放送停止命令を受けた民放ABS-CBN本社前にはロウソクで支持をアピールする人びとが集まった。ABC News (Australia)/ YouTube

<政治家たちが意に反するジャーナリストを抹殺しようとしている>

フィリピンの報道の自由が危機的状況を迎えている。大手の民間放送局が国家放送委員会(NTC)からの命令で放送中止に追い込まれたのに続き、FMラジオ局のキャスターが正体不明の男たちに射殺される事件も起きた。

2016年6月のドゥテルテ大統領就任以来殺害された記者は今回の事件を含めて16人に上るなど、フィリピンはジャーナリストが活動する最も危険な国の一つになっている。

マルコス独裁政権をピープルズパワーで打倒したいわゆる「エドサ革命」。それによって実現したフィリピンの「言論・報道の自由」は今再び危機に瀕している。事実、2020年度の世界180カ国の「報道の自由度」では昨年より2ランク下げて136位となった。

最大手の民放ABS-CBNが免許失効で放送中止

1946年に創業された最大手の民放テレビ局ABS-CBNは5月5日の放送を最後に停波、つまり放送中止に追い込まれた。これは4日に25年間の放送免許が失効したことを受けてNTCが命じたもので、ABS-CBNとその系列テレビ、ラジオ局など全42局が放送中止となった。

現在はYouTubeとFacebookなどのネット上でニュースを伝えるだけになっているが、ABS-CBNはNTCの放送中止命令に対して最高裁に不服を申し立てる方針だ。

NTCによるABS-CBNの放送中止命令は放送免許の更新期限が切れたことが表向きの理由とされているが、議会での更新審議が続いている間は放送継続可能とされていた。

しかしコロナウイルス対策が審議優先とされ、その後議会そのものが中断する事態となり、更新期限を迎えたことからNTCが4日に突然放送中止命令を出す事態になった。

大統領府は「法律に従った決定でNTCの判断である」とするだけだが、ABS-CBNがドゥテルテ大統領の強硬な麻薬犯罪捜査の手法に反対したり、各種政策に批判的な立場の報道を繰り返するなど、政権側にとっては「目障りな放送局」だったことが、今回の放送中止命令の背景にあるとの見方が有力視されている。

レニー・ロブレド副大統領は「コロナ対策で手一杯で、政府がABS-CBN問題に介入する余力はない」として政治的な背景があるとの見方を否定している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタン首都で自爆攻撃、12人死亡 北西部の軍学

ビジネス

独ZEW景気期待指数、11月は予想外に低下 現況は

ビジネス

グリーン英中銀委員、賃金減速を歓迎 来年の賃金交渉

ビジネス

中国の対欧輸出増、米関税より内需低迷が主因 ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入…
  • 7
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 8
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中