最新記事

事件

16歳の妹を兄弟が「名誉殺人」 婚前交渉は家族の恥というインドネシア

2020年5月16日(土)18時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

妹の“名誉殺人”の容疑で拘束された容疑者。KOMPASTV / YouTube

<裁かれるべきは兄弟や関係をもった男か、あるいは男尊女卑を許す社会か──>

インドネシア・スラウェシ島南スラウェシ州南部のバンタエン県で16歳の少女が20歳と30歳の兄弟に惨殺される事件が起きた。

地元バンタエン警察によると、兄弟はこの妹が親戚にあたる男性(45)と婚姻関係がないにも関わらず性的関係をもったことから「将来結婚できない」「家族の恥である」として殺害したいわゆる「名誉殺人」の可能性がある、とみている。

刑法上の規定がないため警察では通常の殺人事件として捜査を続けており、今後起訴されて裁判の結果有罪となれば最高で死刑の可能性があるとしている。

イスラム教徒が人口の88%と圧倒的多数を占めるインドネシアではあるが、イスラム教を国教とはしていないことから一部地域を除いて「イスラム法」は適用されていない。

インドやパキスタン、バングラデシュさらに中東などで時々伝えられる「名誉殺人」だが、イスラム教国ではなく、法的にも道義的にも認められていないインドネシアではこれまで「名誉殺人」の例はほとんど聞いたことがないことから今回の兄弟による妹殺害は衝撃的なニュースとして伝えられ、注目を集めている。

破談の妹を殺害、相手のいとこを監禁

地元メディアなどの報道によると5月12日にバンタエン警察が16歳の少女ロスミニさんが10日に自宅で兄弟2人によって斧、鋭利な棒などによって惨殺されたことを明らかにした。

犯行に及んだ兄弟ラーマン・ビン・ダルウィス容疑者(30)とスプリアント・ビン・ダルウィス容疑者(20)の2人は警察に身柄を拘束されており、現在取り調べを受けているという。

2容疑者は取り調べに対し、ロスミニさんにはいとこにあたる親戚の45歳男性との間で縁談が進んでいた。しかしこの男性がロスミニさんとの結婚に反対したものの、どういう経緯かはこれまでのところ不明だが性的関係をもってしまったという。

ロスミニさんからそれを聞いた兄弟は当初「魔術で騙された結果」と疑ったものの最後には「縁談は破談になったにも関わらず、性的関係をもてば今後妹と結婚したいという男性は現れないだろう。一家の恥である」と激怒して殺害を決意、実行したことを自供しているという。

さらに兄弟は妹を殺害した後に、縁談を断ったにも関わらず性的関係をロスミニさんともったといういとこの男性宅に押しかけて監禁して問い詰めた。この監禁にはたまたま通りかかった近所の男性らも巻き込まれ、一時はいとこを含めた男性3人が人質状態となっていたという。

結局は通報を受けて駆けつけた警察官の説得を受け入れて約2時間後にいとこの男性ら3人は負傷していたものの命に別状はなく解放され、警察は兄弟を「計画殺人」の容疑で逮捕した。

ロスミニさんの母親は兄弟による妹の殺害という未曾有の惨事に精神を乱しており、警察の事情聴取にも応じられない状況が続いていると地元メディアに警察は話している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領令準備

ビジネス

ファーウェイ、チップ製造・コンピューティングパワー

ビジネス

中国がグーグルへの独禁法調査打ち切り、FT報道

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中