最新記事

感染爆発

迫り来る日本の医療崩壊 新型コロナウイルス院内感染で人材ひっ迫

2020年4月6日(月)15時15分

深刻さを増した人手不足

医療スタッフ、さらには人工心肺装置からマスクに至るまで、医療機器の確保にも問題がある。

病院や診療所、介護施設で働く人たちが所属する日本医療労働組合連合会が3月、新型コロナの感染者増加に絡んで職場アンケートを実施したところ、「休暇を取ることが難しい」、「人員確保ができない」、「時間外勤務が増加している」などの声が多く寄せられた。

クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の患者を受け入れたある社会保険病院は、医師と看護師が足りず、全国の社会保険病院に応援を要請した。しかし、要請に応じた病院ももともと人手が不足しており、「医療崩壊まではいかないにしても、かなり危機的な状況だ」と、医労連の森田進書記長は話す。

「これまでも医師や看護師の不足をずっと訴えてきたが、今回感染症の対応でより深刻さを増している」と、森田氏は語る。

重篤患者の命を救う人工心肺装置「ECMO」は、機器そのもの、さらにそれを扱う人材の不足が懸念されている。

東京都の場合、ピーク時に必要となる重篤病床を700床としているのに対し、ECMOの保有数は今年2月時点で196台に過ぎない(日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技師会)。

大手医療機器メーカーのテルモが先日、ECMOの増産を発表したが、日本集中治療医学会は1日の理事長声明で、ECMOを1台使用するには複数の医療従事者が必要であり、日本では扱えるスタッフも足りないと指摘している。

さらに同医学会は、ICU(集中治療室)病床の数がイタリアの半数以下であり、無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達するとみている。

明日は我が身

一般の病院に勤務する30代の女性看護師はここ最近、医療用マスクを繰り返し使用するようになったと打ち明ける。

医療現場では通常、マスクは外すたびに破棄する。それが原則1日1枚に制限され、食事の際はビニール製の袋で密閉して管理、食べ終わったら取り出して装着する状況だという。

「米国でゴミ袋を防護服にしていた看護師が亡くなったという報道があった」と、その女性看護師は言う。「正直、明日は我が身なのかもしれない」。

(取材協力:斎藤真理、山光瑛美、Rocky Swift、村上さくら 編集:久保信博)

宮崎亜巳 中川泉 Ju-min Park

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「感染者ゼロ」北朝鮮の新型コロナウイルス対策
・イタリア、新型コロナウイルス死者・新規感染者ともペース鈍化 第2段階の対策検討
・新型コロナウイルス感染爆発で顕在化 「習近平vs.中国人」の危うい構造


cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中