最新記事

感染症治療

「アビガン」は世界を救う新型コロナウイルス治療薬となれるか

2020年4月3日(金)16時30分
上 昌広(医療ガバナンス研究所理事長) *東洋経済オンラインからの転載

圧倒的なスピードで試験を進めている中国

この薬の有効性については、最近、決着がついた。中国の医師たちが3月18日にアメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』にカレトラと標準的な支持療法だけを比較したランダム化試験の結果を発表したのだ。

『NEJM』は世界でもっとも権威がある臨床医学誌で、その影響力は絶大だ。この研究では症状の改善までに要した時間も致死率も両群に有意な差はなかった。つまり、カレトラは新型コロナウイルスには効かないことが明らかとなった。

特記すべきは、この臨床研究が新型コロナウイルスの遺伝子配列が明らかとなってから1週間後の1月18日に最初の患者が登録されていることだ。資金は中国政府が助成した。圧倒的なスピード感だ。

しかも、この試験はランダム化比較試験の形で実施されている。カレトラの有用性を評価するために、対照群を置くことだ。患者はくじ引きなどによりランダムに割り振られる。ランダム化比較試験は、臨床研究の中でもっとも信頼度が高いとされている。

ただ、実施は難しい。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際にはいかにして信頼できる臨床試験を実施するか、特にランダム化の是非が議論された。人権意識が希薄な中国では、このことは問題とならなかった。

研究で示されたカレトラの有用性

カレトラの有用性については、中国の広州市第八人民病院の医師たちが実施した別の臨床研究でも再確認されている。この研究では軽度〜中等度の新型コロナウイルス感染患者44人をカレトラ投与群と対照群に分けて、カレトラの有効性を評価したが、臨床的な転帰(病気が進行してほかの状態になること)は両群で差がなかった。

複数のランダム化比較試験で共通する結果が出た。カレトラは新型コロナウイルスの治療で効果は期待できそうにない。この事実は重要だ。新型コロナウイルスの治療薬を待望する患者に伝えると同時に、現在進行中の臨床試験は続行の是非を議論しなければならない。

もう1つの結果は期待の持てるものだった。

武漢大学中南病院で実施されたファビピラビルの臨床研究だ。3月18日に中国政府が発表した。ファビピラビルは「アビガン」の商品名で富士フイルム富山化学が開発した日本発の抗インフルエンザ治療薬だ(※本来複数の製薬企業から同一成分の薬が発売されている際の表記では、成分名のファビピラビルを使うのが一般的である。しかし、日本ではアビガンの商品名でその名前が取りざたされているので、以後は「ファビピラビル(アビガン)」と表記することをあらかじめお断りしておく)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 A

ビジネス

ANA、国内線65便欠航で約9400人に影響 エア

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中