最新記事

韓国社会

元KARAク・ハラ、死後に噴き出した韓国の闇──遺産争い・N番部屋・女性嫌悪

2020年4月14日(火)20時10分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)
ク・ハラの遺影と兄ク・ホイン

子供を捨てた親の相続権を剥奪できるよう「ク・ハラ法」の制定を訴える兄ク・ホイン CBS 김현정의 뉴스쇼 / YouTube

<K-POPの女性アイドルとして活躍したク・ハラの周囲にはさまざまな韓国社会の闇が広がっていた>

昨年11月24日、元KARAのメンバー、ク・ハラが自ら命を絶ったという衝撃のニュースが駆けめぐった。あれからもうすぐ5カ月が経とうとしているが、彼女の死は今もなお韓国社会では様々な社会的イシューを投げかけ続けている。

ここ数週間で「ク・ハラ法」という言葉をよく目にするようになった。これは、ク・ハラの実兄が呼びかけ成立させようとしている法案である。

彼によると、ク・ハラの母親はハラ9歳、兄11歳の時に家を出ていき、その後20年近くまったく連絡をよこさなかった。その後、両親は離婚し、2006年に母親は親権を放棄したという。ハラと兄は祖母と叔母が育て上げ、父親はその間全国の建設工事現場を渡り歩いて生活費を稼いでいたそうだ。

ク・ハラが亡くなって突如現れた母

ところが、ク・ハラが亡くなり報道されるようになると、この母親は突然弁護士を通じて兄に連絡をよこすようになった。ハラの残した財産について5対5で分け合おうというのだ。

その後、葬式の場に姿を現し、今まで自ら連絡すらしなかった母親が、参列者に「自分がハラの母親だ」とアピールしながら、それをスマホで録音し相続の証拠にしようとしていたことも兄の証言で明らかにされている。

今まで母親として会おうともせず、捨てたも同然の子供の財産を親が相続できるのだろうか。韓国の民法1000条「相続順位」の項を見てみると、優先順が最も高いのは、子供と配偶者であり、2番目が両親、そして3番目が兄弟姉妹となっている。

もちろん生前に正式な遺言などを残した場合などの特例は認められているが、未婚で子供もなく、遺言に財産分与について記述がなかったク・ハラの場合、最優先相続者は自動的に両親となる。

問題は、何十年も連絡もなく親権を放棄したのにもかかわらず、血縁のみで相続権利が認められているという点だ。これに疑問をもったク・ハラの兄は、3月18日弁護士を立て、国民同意請願のホームページで「子供を捨てた親の相続権を剥奪」できるよう法改正を訴えた。国会国民同意請願では、オンライン上で30日以内に10万人以上の同意を得らえれば関連法の所轄常任委員会で審査を受けることができ、法律の見直しも可能となる。

4月1日には、地上波放送局MBCが二人の兄妹の辛かった半生を紹介しつつ、ク・ハラ法を立法請願した経緯をつづった特集番組を放送して、ますます韓国国民の注目を集めた。そのかいあってか、国会国民同意請願は4月3日に同意者10万人を突破、審議入りが決定している。

ク・ハラの兄は、法改正がされた後も、このまま「ク・ハラ法」で立法したいと考えている。その思いには、世間が彼女を忘れないように、そして今後も同じ境遇で苦しんでいる人々をク・ハラが守るという意味合いを込めているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、大型台風26号接近で10万人避難 30

ワールド

再送-米連邦航空局、MD-11の運航禁止 UPS機

ワールド

アングル:アマゾン熱帯雨林は生き残れるか、「人工干

ワールド

アングル:欧州最大のギャンブル市場イタリア、税収増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中