最新記事

医療

新型コロナウイルス治療の人工呼吸器が世界的不足 軍も協力し増産態勢

2020年3月28日(土)10時16分

スイスのハミルトン・メディカルはさきごろ、400台の人工呼吸器をイタリアに送った。写真は3月18日、スイスのドマート・エムスで撮影(2020年 ロイター/Arnd Wiegmann)

3月6日、イタリアの人工呼吸器メーカーのトップであるジャンルカ・プレチオーザ氏は緊急の要請を受け取った。イタリア当局が人工呼吸器に対する緊急のニーズに総力を挙げて応えるため、彼に協力を求めたのだ。

彼の企業、つまりボローニャに本社を置くシアレ・エンジニアリング・インターナショナル・グループでは、現在25人の陸軍技術者が同社の生産管理者と力を合わせ、増産の手配や機械の組み立てを支援している。プレチオーザ氏によれば、陸軍は同社の下請会社にも人員を提供しているという。

ロイターの取材に応じたプレチオーザ氏は、「通常、我が社の生産量は月160台だ。目標は4カ月で2000台、つまり従来の月間生産台数の3倍以上ということになる」と語った。同氏はさらに、人工呼吸器製造のサプライチェーンに含まれる各社は「ニッチ産業だけに、非常に大きな需要には対応できない」と話す。

シアレ・エンジニアリングはふだんなら波風の立たない医療機器市場の一角を占めているが、いまや、新型ウイルスの急速な拡大によって生じた、今世紀最大の医療危機の最前線に立たされている。インフルエンザに似ているが、重症例では呼吸困難と肺炎を引き起こす。

人工呼吸器メーカーは生産急拡大のプレッシャーを受けているが、折悪しく、パンデミックのせいで、ホースやバルブ、モーターや電子部品など、不可欠なパーツの輸送・サプライチェーンは途絶している。そのなかには、すでに全世界で1万人以上の死者を出した感染拡大の震源地・中国から輸入されるものもある。

人工呼吸器が不足するなかで、各国政府は軍の支援を求め、他製品のメーカーも動員し、さらには3Dプリンター技術にまで目を向けている。いずれも、命を救う可能性のある人工呼吸器の製造を拡大しようという狙いだ。イタリアでは、エミリアロマーニャ州の新型コロナウイルス対策担当長官によれば、複数の医師によるチームが1台の人工呼吸器から2人の患者に酸素を供給することで対応能力を倍増させる方法を開発した。

1台数万ドル(数百万円)のコストがかかる人工呼吸器は、空気・酸素を肺に送り込むことのできる呼吸装置だ。新型コロナウイルスによる疾病「COVID-19」が重症化した場合の合併症の1つ、肺炎を抱える患者の治療には不可欠である。だが、必ずしも人工呼吸器が患者の命を救うわけではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中