最新記事

世界経済

コロナショックの経済危機はリーマン超え

This Could Be Worse Than 2008

2020年3月27日(金)16時10分
アダム・トゥーズ(コロンビア大学教授)

値下げ競争が他部門にも広がれば「負債デフレ」、つまり物価の下落で企業の負債が実質的に増大する現象が起きる。世界全体で企業の負債は2008年の2倍に上っており、この負担が増大すれば世界全体で景気が急激に冷え込む。

流動性確保に走る市場

だが新型コロナウイルスによる景気後退には、減税や政府支出など古典的な財政政策で対処できる。感染拡大の最悪期を乗り切れたら、まずは公衆衛生インフラに投資することだ。今回明らかになったように、どの国も感染症の監視、モデリング、緊急対応システムを大幅にグレードアップし、物品の備蓄や予備能力を拡充する必要がある。それにより建設的な投資機会が数多く生まれ、質の高い雇用が創出されるだろう。

2008年と違って今回は危機をきっかけに成長が見込める部門もある。アメリカのGDPの約18%を占める医療部門はその代表格だ。人と人の接触を避ける必要があるため、非対面型のデリバリーサービスやウェブ会議システムの利用も増えている。こうした部門は危機後も成長するだろう。

とはいえ2008年と同様、景気後退に対処する前に抑えるべき脅威がもう1つある。金融パニックのリスクだ。パニックは景気後退とは違う。今回の金融パニックは3月第2週から始まり、今も市場を揺さぶり続けている。

直接的な引き金となったのは、サウジアラビアとロシアの石油減産交渉の決裂と、その後のサウジアラビアの大幅な増産決定だった。イタリアの感染拡大のニュースに、経済に直結する油価のニュースが重なったため、世界的な信用収縮と、安全な資産への資金逃避に火が付いた。

感染症という異質の要因が経済にもたらした衝撃が、信頼感と信用の崩壊という経済システムの内部崩壊に「変異」しつつあることが、市場関係者にも少しずつ分かってきた。

突然の信用収縮は、ビジネスモデルが弱いにもかかわらず、莫大な借入金によって仕事を回してきた企業をあぶり出す。その経営悪化は、操業停止や雇用喪失、さらには本来なら優良な資産のたたき売りを通じて、経済全体の先行きを怪しいものにする。

こうした企業が借入金の返済に窮すれば、債権者のバランスシートがダメージを受ける(そんな企業に融資していた時点で間違っているのだが)。そしてこの種の連鎖的な破綻に対する不安が、全面的な信用収縮をもたらす。

2008年の金融危機の「主犯」は銀行だった。だがその後、アメリカの大手銀行はバランスシートを強化してきたから、今回は困難に陥るとは考えにくい。だがヨーロッパの銀行は違う。2008年の金融危機とユーロ圏の財政破綻のダブルパンチから、まだ本当に立ち直ったとは言えない状況だ。イタリアの公的債務は今も危険なレベルにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:自動車業界がレアアース確保に躍起、中国の

ワールド

アングル:特産品は高麗人参、米中貿易戦争がウィスコ

ワールド

トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と「ディ

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 2
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中