最新記事

ワクチン

複数のインフルに長期間効果のある「ユニバーサルインフルエンザワクチン」開発間近か

2020年3月12日(木)18時00分
松岡由希子

インフルエンザの予防対策を大幅に進化させると期待される...... Moussa81-iStock

<複数のインフルエンザ株に長期間にわたって予防効果のある「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の有望な研究成果が明らかとなった......>

世界保健機関(WHO)によると、毎年、季節性インフルエンザによって300万人から500万人が重症化し、29万人から65万人が死亡している。

複数のインフルエンザ株に長期間予防効果がある

現在のインフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの表面タンパク質を標的として抗体を産生させる仕組みとなっているが、抗体の標的となるウイルスの領域は頻繁に変異する。それゆえ、毎年、インフルエンザ流行期にあわせて、流行が予測されるインフルエンザ株をもとにワクチン製造株が選定され、インフルエンザワクチンが生産されてきた。

複数のインフルエンザ株に長期間にわたって予防効果のある「ユニバーサルインフルエンザワクチン」は、インフルエンザの予防対策を大幅に進化させるものとして期待が寄せられている。このほど、その有望な研究成果が明らかとなった。

英国の製薬会社SEEKらの研究チームは、ユニバーサルインフルエンザワクチン「FLU-v」の免疫原性、安全性および有効性を評価し、その結果を2020年3月10日、米国内科学会の学術雑誌「アナルズ・オブ・インターナル・メディシン」で発表した。

研究チームは、18歳から60歳までの成人175名を被験者として、「FLU-v」を投与するグループと偽薬を投与するグループに無作為に分け、同時に同期間、これを投与する「二重盲検試験(DBT)」を実施。免疫系に関連する複数のバイオマーカー(生物指標)の数値を比較したところ、「FLU-v」を投与された被験者は偽薬を投与された被験者に比べて免疫応答が高まったことがわかった。

実用化に向けて、有効性と安全性を検証へ

研究論文の筆頭著者であるSEEK社の最高科学責任者(CSO)オルガ・プレグエズエロ博士は、科学ニュースメディア「サンエンスアラート」において、「このワクチンは細胞性応答と抗体応答を誘導し、これらの応答は予防接種から6ヶ月後も検出できる」と述べている。

「FLU-v」は、これまでのインフルエンザワクチンと異なり、変異しない領域を標的としているのが特徴だ。異なるインフルエンザ株でも大きく変化しないタンパク質をターゲットとすることで、変異によってヒトの免疫系から逃れようとするインフルエンザの能力を低下させる仕組みとなっている。

研究チームでは、コンピュータアルゴリズムを用いて、インフルエンザウイルスのタンパク質で強い免疫応答を誘導しやすい領域を特定するとともに、その領域が変異する頻度を分析した。「FLU-v」は、インフルエンザの4つの領域に対して4種類の成分を有しており、これら1つが変異しても、残り3つの有効性を担保する構造となっている。

研究チームでは、今後、「FLU-v」の実用化に向けて、より多くの被験者でその有効性と安全性を検証する「第3相試験」に着手する方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中