最新記事

新型肺炎:どこまで広がるのか

新型コロナウイルス:「ゴーストタウン」北京からの現地報告

REPORTING FROM A GHOST TOWN

2020年2月10日(月)11時15分
齋藤じゅんこ(ジャーナリスト)

長距離バスは全てストップ

春節中に北京に居残った出稼ぎ労働者もいることはいる。だが、労働力不足は明らかだ。わが家の牛乳配達も再開していない。京東商城(JDドットコム)など大手ネットショップの宅配流通は通常どおりだが、「盒馬(フーマー)」など生鮮宅配は遅れも出始めている。

周囲が困っているのが「阿姨(アーイ)」と呼ばれる家政婦の欠員だ。筆者の知人宅で働く内モンゴル出身の家政婦も、騒動前の予定では20日間の休暇を取って2月7日に戻るはずだったが復帰のめどが立たない。

出稼ぎ労働者を北京に運ぶ足は事実上絶たれている。感染拡大への懸念から、全国各地の町や村で住民の出入りを制限する封鎖が行われ、北京市は1月26日、地方から北京市に乗り入れる長距離旅客バスを全てストップさせた。鉄道も鈍行列車など運賃が安い路線は運休している。

北西部の甘粛省から北京に出稼ぎに来ている女性によると、地方では村の入り口に村民委員会が検問所を設けて出入りを管理。村民には家から外出しないよう呼び掛け、みんな家でじっとしているという。出稼ぎに行こうにも公共交通手段は運休中で、仮に自家用車で送ってもらっても、今度は車の運転手が村内に戻れなくなるので誰もやりたがらない。

封鎖は遠い甘粛省の村だけではない。北京市郊外の新興ベッドタウンの天通苑でも、地区を管理する村民委員会が入り口を閉鎖。地方から戻った住民が契約中の借家に帰れない事態が起きた。

そしてわが家がある集合住宅も2月1日以降、北京市の全ての集合住宅に倣い、入り口を閉ざして住民の出入りを管理している。自分の居住エリアから感染者を出さないためではあるが、地元政府と組むことで出入りの管理は強化され、殺伐としてきた。

もうすぐ1歳になる乳児を抱えるある女性は、子供への感染が心配で一時期は非常に悩んでいた。毎日ニュースや微信の情報を徹底的にチェックし、死亡率がSARSより低く、回復者が増加していることを知ってようやく少し落ち着いてきたという。

彼女は予防に最大限の注意を払っており、エレベーター内での感染の可能性が指摘されてからは、使い捨て手袋を使って階数ボタンを押すようにしている。

人との接触を避けるためにスーパーでの買い物を減らし、盒馬などからの宅配を利用。受け取りもケンタッキー・フライドチキンで有名になった無接触配達方式で、宅配員と距離を空けて床に置かれた商品を受け取る──。

話を聞くと、幼い赤ん坊を守ろうとする気持ちから神経が研ぎ澄まされている様子がよく伝わってきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、サムスンなど企業幹部と会談 トランプ氏

ビジネス

日経平均は3日ぶり反落 最高値更新後に利益確定 方

ビジネス

アングル:米中の関税停止延長、Xマス商戦の仕入れ間

ビジネス

訂正-午後3時のドルは147円後半でもみ合い、ボラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 10
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中