最新記事

都市

「自動車が乗り入れない都市」を模索する世界の潮流、その成果は

2020年1月15日(水)17時00分
松丸さとみ

都市部への「自動車乗り入れを禁止」は世界的に広がっている ノルウェー・オスロ nouchka -iStock

<都市部への自動車乗り入れを禁止とする動きは、世界的に広がりを見せている。各地の反応もさまざまだ ......>

駐車スペースは公園や自転車レーンへ

ノルウェーの首都オスロでは2019年の1年間で、市内で交通事故により死亡した人の数は1人だったことが明らかになった。米国の自動車情報サイト「ジャロップニック」によると、自動車がフェンスに激突してドライバーが死亡したものだ。

人口約67万3000人のオスロで、交通死亡事故が1件と少なかったのには、大きな理由がある。同市では、2015年から2019年までの計画で、段階的に市内への自動車乗り入れの制限を進めていたのだ。

その一環として、市内中心部にあった駐車場約700カ所を2018年末までにすべて撤去した。これらの駐車場は現在、自転車専用レーンや小さな公園、ベンチなどに生まれ変わっている。体に障害のある人などで移動に必要な車や、店舗へ物資を配送するトラック、緊急車両などは乗り入れ禁止の対象外だ。また、電気自動車を充電するための駐車スペースは残されている。

さらに、厳しいスピード制限も設けられた。このような政策により、自動車は市内中心部に乗り入れをせず、環状線で迂回するようになったという。死亡事故の激減は、こうした取り組みが奏功したのだ。

空気汚染の緩和や炭素排出削減を目指し

都市部への自動車乗り入れを禁止とする動きは、世界的に広がりを見せている。スペインのマドリッドも、市内中心部への自動車の乗り入れを禁止とする方向へ動いており、フランスのパリやギリシャのアテネ、メキシコのメキシコシティでも、2025年までに都市中心部へのディーゼル車の乗り入れを禁止にする計画を立てている。モロッコのフェズには、都市部としては世界最大とされる「カーフリー・エリア」がある。

また、渋滞緩和を目指し2003年から「渋滞税」を導入している英ロンドンでは今年3月から、英国内で初めて、自動車の乗り入れを終日禁止とする取り組みを試験的に開始する。英フィナンシャル・タイムズ紙によると、当初は金融街の一角にあるビーチ・ストリートのみが対象となるが、2022年までには、自動車の乗り入れ禁止を金融街全域へと拡大する予定だ。ロンドン市はまた、2030年までには金融街一帯のスピード制限を時速15マイル(約24キロ)に落とし、2044年までには交通量を半減させたい考えだ。

市の中心部から自動車を締め出す取り組みの目的は、市によって異なるようだ。オスロの場合は、「(車が主役だった)道路を人に返そう」というのが狙いだったとしている。

一方で、空気汚染の緩和や二酸化炭素排出の低減を実現するためという都市もある。例えば英ロンドンでは、前述の通り金融街で交通規制をすることによって、2030年までに金融街での空気汚染の解消を目指している。また、中世からの歴史が息づく英北部の都市ヨークは昨年12月、3年かけて市内中心部から自動車を排除する計画を発表したが、その目的は、二酸化炭素排出の削減だ(英ガーディアン紙)。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

台湾中銀、政策金利据え置き 予想通り

ワールド

米民主党、支持者6割が指導部交代望む 「経済に焦点

ビジネス

国債発行修正案の報道で金利低下、出尽くし感も 需給

ワールド

日韓国交正常化60年で式典、石破首相「厳しい戦略環
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 2
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 3
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディズニー・ワールドで1日遊ぶための費用が「高すぎる」と話題に
  • 4
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 7
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中