最新記事

アジア

「帝王然とした習近平」から「敵失の安倍晋三」まで、アジア首脳の2019年を振り返る

Asia’s Prize Winners From the Year of the Pig

2019年12月26日(木)17時30分
アンソニー・フェンソム

香港のデモをよそに、香港行政長官の林鄭月蛾(キャリー・ラム)とマカオ返還20周年の式典に参加した習近平 Jason Lee-REUTERS

<アジア各国首脳の2019年のパフォーマンスを表彰>

アジアにクリスマスの伝統はないかもしれないが、それはプレゼントを断る理由にはならない。アジア各国が年越しの準備に追われる今だからこそ、2019年の各国首脳のパフォーマンスを振り返ってみよう。

■空気が読めないで賞/ナレンドラ・モディ(インド)

クリスマスを台無しにしたアニメ映画の怪物グリンチさながら、インドのナレンドラ・モディ首相は「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」からの撤退を表明し、野心的な自由貿易圏構想を台無しにした。

年内に妥結にこぎつけようと、他の加盟国が粘り強く交渉を進めるなか、経済の構造改革の困難さにひるんだモディは、自国産業の保護を優先するという安易な道を選んだ。この選択によりRCEPも打撃を受けるが、それ以上にインドが大打撃を受ける。アジア第3位の経済大国は今や15カ国が加盟するRCEPにも、環太平洋の11カ国が加盟する貿易協定TPPにも背を向けて孤立の道を歩もうとしている。

インドが入れば全16カ国だったRCEPは、世界のGDPのおよそ3分の1、世界の人口の半分を占める世界最大の自由貿易圏となるはずだった。同じくアジア諸国の貿易協定であるTPPと競合関係にあるとはいえ、はるかに優れた多国間連携となる可能性を秘めていた。

国内では、ヒンズー至上主義の与党を率いるモディは反イスラム的な市民権法改正を強行。イスラム教徒の激しい反発を招き、宗教対立が激化している。地域経済の起爆剤だったインド経済の急成長にも陰りが見え始め、2020年の見通しは明るくない。

■批判にも動じないで賞/習近平(中国)

香港ではクリスマスにも各地で民主化を求めるデモが行われた。既に半年余り続く抗議デモが経済活動を直撃し、香港は10年振りに景気後退に突入したが、中国の習近平国家主席は市民の声に全く耳を貸そうとしない。「終身主席」を目指しているとも言われる習だが、新疆ウイグル自治区のウイグル人弾圧で国際社会からも激しい批判を浴びている。

成長が失速した中国経済に、米中貿易戦争の影響がボディブローのように効き始めている。民間部門が抱える過剰債務は膨らむ一方で、建設投資は鈍化し、内需も持ち直しそうにない。

だが習はこうした経済状況にも動じる気配を見せていない。米中貿易交渉では大した譲歩をせずに「第1段階」の合意に達し、居丈高なドナルド・トランプ米大統領と動揺しがちな金融市場を一時的にせよなだめることに成功した。

内外の圧力が高まり続けるなかで、習がいつまで帝王然とした不動の姿勢を保てるかはともかく、現時点ではトランプより一枚上手の役者であることは確かだ。

<参考記事>中国「皇帝」習近平は盤石ではない、保守派の離反が始まった

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用コスト、第1四半期1.2%上昇 予想上回る

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

米マクドナルド、四半期利益が2年ぶり予想割れ 不買

ビジネス

米CB消費者信頼感、4月は97.0に低下 約1年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中