最新記事

寄生

ハエに寄生した菌が、ハエを支配し、胞子を飛散させるメカニズムを分析

2019年11月5日(火)18時10分
松岡由希子

ハエカビはハエに寄生し支配する...... NobbiP via Wikipedia

<ハエ類に寄生し、脳に感染して行動を支配し、体内から栄養を奪ってやがて死に至らしめるハエカビ。デンマーク工科大学などの研究チームがこの「射出胞子」のメカニズムを分析した......>

菌類の一種であるハエカビは、イエバエなどのハエ類に寄生し、脳に感染して行動を支配し、体内から栄養を奪ってやがて死に至らしめる。また、宿主であるハエ類が死ぬ直前には、可能な限り高いところに登らせて、胞子と液体で満たされた「射出胞子」を胞子を広く散布させる。

「射出胞子」は、内部の圧力が一定レベルにまで上昇すると"カノン砲"のように胞子を含む液体が外部へ打ち出される性質を持つが、そのメカニズムについてはまだ完全に解明されていない。

ハエカビの「射出胞子」を模倣した小型の「ソフトカノン砲」を設計

デンマーク工科大学(DTU)、コペンハーゲン大学、蘭ワーヘニンゲン大学(WUR)の共同研究チームは、エラストマー素材を使ってハエカビの「射出胞子」を模倣した小型の「ソフトカノン砲」を設計し、液体の量や圧力を変えるシミュレーションを通じて、ハエカビの「射出胞子」のメカニズムを分析した。

研究成果は、2019年10月30日、英国王立協会の学術雑誌「ジャーナル・オブ・ザ・ロイヤル・ソサエティ・インターフェース」で公開されている。

研究チームでは「胞子が大きくなるほど、射出速度が遅くなる」との仮説のもと、射出速度を最適化する胞子のサイズを調べた。その結果、ハエカビの胞子とほぼ同等の約10マイクロメーターが最適であることがわかった。この程度の小さな胞子であれば、気流によって持ち上がり、微風でも移動できるというわけだ。

また、ハエカビの「射出胞子」は、空力抵抗があるにもかかわらず、数センチの範囲内に胞子を飛散させる。研究チームが超高速ビデオカメラを使ってその射出速度を調べたところ、推定秒速10メートルであることが明らかとなった。

胞子のサイズや射出速度が最適化されている

これらの研究結果によれば、ハエカビの「射出胞子」は、胞子を広く飛散させるために、胞子のサイズや射出速度が最適化されていることがうかがえる。

なお、米ノースカロライナ州立大学の研究チームが2002年に発表した研究成果によると、イエバエの雄は、ハエカビに感染して死んだ雌に惹き付けられる性質があるという。どうやらハエカビの「射出胞子」の準備が整う頃には、新たな宿主がすぐそばまで近づいてくるようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

焦点:企業決算、日本株高再開の起爆剤か 割高感に厳

ワールド

人口減少は日本の最大の戦略課題=有識者の提言で林官

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下

ワールド

米議会の対外支援法案可決、台湾総統が歓迎 中国反発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中