最新記事

イスラム過激派

IS最高指導者バグダディ その転落の軌跡

2019年11月2日(土)12時25分

過激派組織「イスラム国」(IS)の指導者、アブバクル・バグダディ容疑者が、米軍急襲を受けて死亡した。写真は2014年7月の動画の1カット(2019年 ロイター/Social Media Website via Reuters TV)

激派組織「イスラム国」(IS)の指導者、アブバクル・バグダディ容疑者が、米軍急襲を受けて死亡した。無名の存在から身を起こし、イスラム教の預言者・ムハンマドの後継者「カリフ」を自称するまでになったが、近年は逃亡生活を送っていた。

トランプ米大統領は27日、ホワイトハウスからのテレビ演説で、米軍特別部隊の急襲作戦によって、バグダディ容疑者が自爆して死亡したと発表した。

バグダディ容疑者は1971年、イラクの首都・バグダッド北部、サマラ近辺の貧しい地域に生まれた。家族にはイスラム教スンニ派の厳格主義グループ、サラフィー主義勢力の伝道師がいる。

米主導の有志連合軍がイラクに侵攻した2003年、バグダディ容疑者はジハード(聖戦)を呼びかけるサラフィー主義勢力の蜂起に参加し、米軍に拘束された。米軍は、バグダディ氏が民間に潜む扇動者の1人ではあるが、軍事的な脅威はないと見て、約1年後に釈放した。

バグダディ容疑者が世界の注目を集めるのは、2014年7月4日になってからだった。聖職者の黒衣をまとい、イラク北部・モスルのモスクの説教壇に上った容疑者は、イスラム国の再建を宣言。「神は、われわれに敵との戦いを命じられた」と述べ、「カリフ・イブラヒム、信徒の司令官」と名乗った。

呼びかけに答え、世界中からイラクとシリアに数千人が集結。シーア派主導のイラク政府および米・西側諸国の同盟との戦いに加わるため、「イスラム国の兵士」として志願した。

ISは最盛期の2016年にイラクとシリアの4分の1の地域を支配。過激思想を掲げて少数派宗教の教徒を迫害した。中でも中東地域で最も古い宗教の1つであるヤジディ教の信者を対象に数千人を集団虐殺し、同容疑者の残虐性があらわになった。また、女性の信者は性奴隷とされた。

5大陸の数十都市で攻撃を実施し、犯行声明を出し、米国人、英国人、日本人らを人質として殺害した。

米国は、国際テロ組織・アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者の時と同額の2500万ドルの懸賞金を提示し、バグダディ容疑者の拘束を図った。

バグダディ容疑者の演説は、録音された音声で配信された。秘密主義で慎重な性格に適したこの方法は、長期間にわたって偵察や空爆から逃れるのに役立った。同氏は一方で、意見が対立する者や、以前の仲間を抹殺する無慈悲さも持ち合わせた。

しかし、ここ数年でISとバグダディ容疑者の勢力は急速に衰退。2017年には「首都」モスルで敗戦してイラクでの支配地域をすべて失い、シリアでは「第2の首都」ラッカを奪還された。

「領地」を奪われたバグダディ容疑者は、イラク・シリア国境の砂漠地帯に逃亡。普通の自動車や農作業用トラックで、運転手とボディーガード2人を伴って隠れ家を転々とする生活を送っていた。

暗殺や裏切りを恐れて電話は使えず、イラク人の側近2人とは、わずか数人の密使を通じて連絡を取り合っていた。側近2人はバグダディ容疑者の有力な後継者と目されていたが、1人は17年3月に殺害され、もう1人の行方は分かっていない。

Ahmed Rasheed Ahmed Aboulenein

[バグダッド ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!


事故機の捜索について伝える韓国メディア YTN NEWS / YouTube

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 7

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中