最新記事

チリ

チリ暴動が照らし出す、反緊縮デモが世界各地に広がる理由

2019年10月28日(月)19時20分
ジョシュア・キーティング

サンティアゴではデモ参加者と治安部隊の衝突も相次ぐ(10月24日) IVAN ALVARADO-REUTERS

<エクアドル、アルゼンチン、レバノン、ジンバブエ、ヨルダン、ハイチ、イラク......。物価上昇が引き金になることが多いが、それだけではない>

緊縮と生活必需品の価格上昇──その結果、各国が怒りの波と混乱に覆われている。

南米チリでは、10 月中旬から続く暴動でこれまでに少なくとも計19人が死亡。地下鉄運賃値上げへの抗議として、首都サンティアゴで始まった今回のデモは格差や物価上昇への怒りも誘い出し、国内のほかの都市に拡大している。

チリの混乱が衝撃を与えているのは主に、1990年の民政移管以来、比較的豊かで政治的に安定した国であり続けてきたからだ。とはいえ今回の騒動は、昨今おなじみのパターンをなぞっている。

同じく南米のエクアドルでは先頃、IMFの財政支援を受けるための緊縮財政に伴う燃料補助金廃止に抗議する大規模デモが発生し、廃止が撤回された。アルゼンチンでも、IMFとの合意に基づく緊縮策に対する抗議行動が1年以上前から頻発している。

こうした混乱は当然の帰結だったのか。中南米各国では、コモディティ(1次産品)輸出に牽引された経済成長が約10年間続いて中間層が台頭したものの、4年ほど前から経済が減速。景気が下降するなか、政府は支出を削減し、国民は不安を感じている。

政治学者パトリシオ・ナビアは故国チリの危うい現状について、「真の原因は中間層という『憧れの地』への参入を約束された国民の欲求不満にある。そうした約束は横暴なエリート、無反応な政府、口先だけの実力主義や機会均等に象徴される不公平な競争環境のせいでほごにされてきた」と指摘している。

緊縮と汚職と景気後退

緊縮策を背景とする反政府デモは南米以外にも広がっている。巨額の財政赤字への対処を迫られるレバノンでは10月に入って、付加価値税率引き上げやメッセージアプリ「ワッツアップ」などの無料音声通話への課税案に対する抗議をきっかけに、数十万人規模のデモが起きた。

ハイパーインフレ状態のジンバブエでは今年初め、ガソリン価格引き上げ決定を受けて大規模なデモが発生。ヨルダンでは昨年、食料品・燃料補助金の廃止に怒る市民が大挙して街頭に繰り出した。

噴き出した反発の激しさは、2011年に欧州で吹き荒れた反緊縮の嵐を思わせる。だが今回、反発の動きは主として中南米や中東、アフリカで展開し、その舞台は最貧国から中所得国、独裁国から安定した民主主義国までと幅広い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中