最新記事

災害

「武蔵小杉ざまあ」「ホームレス受け入れ拒否」に見る深刻な日本社会の分断

2019年10月25日(金)17時00分
真鍋 厚(評論家、著述家) ※東洋経済オンラインより転載

武蔵小杉について「セレブの町気どりで調子に乗ってるから天罰が下った」と評している書き込みが典型だ。これはある種の「終末観」と「長者没落譚」(富裕者の転落話)を都合よくブレンドしたものだと思われ、「二極化する日本社会」を"正常な秩序"に回復する「天の采配」を期待しているとも取れるのである。

民俗学者の宮田登は、「三代続く長者なし」という諺の背後にある「原初的要因として火難・水難が指摘されている」という(『終末観の民俗学』ちくま学芸文庫)。「社会の分断」がこれらの思考に絡め取られるのはまずいだろう。

ここで絶対に忘れてはならないのは、ソルニットが述べているように、どのような災害が振りかかろうとも、結局は日常生活が取り戻されるということである。そして、日常生活こそが本来わたしたちが共同性を紡がなければならない機会であり、それがなければ災害時の危機管理もおぼつかない。

「誰もが被災者になりうる」のに

地球温暖化の影響により、集中豪雨や超大型台風などのこれまで経験のなかったような異常気象が、今後ますます起こりうる可能性は各方面で指摘されている。要は、従来のように過去の降雨量のデータを参考に堤防などを整備したところで、豪雨による氾濫や堤防決壊などのリスクに対処できない可能性が高まるということだ。

「誰もが被災者になりうる」――そんな未曾有の時代に突入しているにもかかわらず、自然の猛威にさらされる被災地を他人事として眺め、いざそれが自分事になると「寄る辺ない」世界にいることに気付く。これがわたしたちの偽らざる"現在地"かもしれない。



※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg


ニューズウィーク日本版 教養としてのBL入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月23日号(12月16日発売)は「教養としてのBL入門」特集。実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気の歴史と背景をひもとく/日米「男同士の愛」比較/権力と戦う中華BL/まずは入門10作品

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

サウジ原油輸出、10月は2年半ぶり高水準 生産量も

ワールド

豪政府が銃買い取り開始へ、乱射事件受け 現場で追悼

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

米ブラウン大学銃撃事件の容疑者、遺体で発見 MIT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中