最新記事

2020米大統領選

米民主党最有力のウォーレンは危険なイデオローグ?

Is Elizabeth Warren an Ideologue?

2019年10月25日(金)18時00分
ウィリアム・サレタン

実際、討論会では、複数の候補がウォーレンの極端な主張に異論を唱えた。インディアナ州サウスベンド市のピート・ブーティジェッジ市長は、「なぜあなたが、民間保険を廃止しなければ、国民皆保険を実現できないと言うのか理解できない。1億5000万人のアメリカ人が現在加入している保険を捨てろと言うのか」と問い掛けた。

ベト・オローク前下院議員は、「分割するべき企業名を具体的に挙げるのは、大統領または大統領候補の仕事ではないと思う」と語った。大富豪のトム・スタイヤーは、民主党は「税金や企業の分割でなく、民間のイノベーションや競争を活用する方法を語るべきだ」と主張した。

極端な主張ゆえに、「異なる声に耳を貸さない頑固者」というレッテルを貼られることは、ウォーレンにとっても危険だ。「あなたのアイデアが唯一のアイデアではない」と、エイミー・クロブチャー上院議員はウォーレンにクギを刺した。

オロークはもっと辛辣だった。「ウォーレン上院議員は、国民を鼓舞することよりも、懲らしめたり、対立させたりすることに力を入れているように見える」。ブーティジェッジも、「党派的な争いを永遠に続けることだけが唯一の道だというウォーレン上院議員の姿勢には、私も賛同できない」と語った。

ウォーレンは、こうした批判に「ショックだ」と驚きを隠さなかった。それはあながちパフォーマンスではないのかもしれない。なにしろ彼女はこれまで、もっぱら熱狂的な支持者に囲まれて選挙活動を展開してきた。厳しい突っ込みを入れるジャーナリストのインタビューを受けることはめったにない。

討論会後、メディケア・フォー・オールには増税が必要なのではないかと問われたとき、ウォーレンは、「国民はそんなことは気にしていない」と切り捨てた。「私と写真を撮るために行列する人たちは、(税金ではなく)費用の話をする」。だが、彼らはウォーレンの支持者であって、民主党が獲得しなければならない有権者ではない。

もしかするとウォーレンには、秘策があるのかもしれない。民主党の大統領候補に決まったら、「分別ある進歩主義者」に軌道修正するのかもしれない。

だが、少なくともこの前の討論会では、その気配は感じられなかった。そこにいたのは、宗教的保守派を相手にせず、間違ったことを堂々と言い放ち、アメリカ先住民の血を引いていると主張したことについては言葉を濁す「いつものエリザベス・ウォーレン」だった。

©2019 The Slate Group

<本誌2019年10月29日号掲載>

【参考記事】民主党予備選で着実に支持を上げるエリザベス・ウォーレン
【参考記事】米民主党候補ウォーレン、大手IT・銀行幹部からの献金拒否へ

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。


ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領府長官が辞任、和平交渉を主導 汚職

ビジネス

米株式ファンド、6週ぶり売り越し

ビジネス

独インフレ率、11月は前年比2.6%上昇 2月以来

ワールド

外為・株式先物などの取引が再開、CMEで11時間超
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 8
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 9
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 10
    バイデンと同じ「戦犯」扱い...トランプの「バラ色の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中