最新記事

トランプ政権

ロシア疑惑とはまったく違う、ウクライナ疑惑の中心人物はトランプ本人

Much Worse than Before

2019年10月2日(水)18時40分
イライアス・グロル

ニューヨークで開催された国連総会で一般討論演説を終えたトランプ(9月24日) DREW ANGERER/GETTY IMAGES

<ウクライナ疑惑はロシアの介入疑惑と違い、トランプ自身の権限乱用が焦点――弾劾と選挙への影響は>

あっという間だった。2016年の米大統領選に対するロシアの介入疑惑では2年がかりの捜査でも得られなかったものが、今回はあっさり手に入った。ドナルド・トランプが現職のアメリカ大統領としてウクライナの大統領に、軍事援助を餌に自分の政敵への攻撃をけしかけた疑惑が急浮上し、ついにナンシー・ペロシ下院議長(民主党)も、大統領弾劾に向けた調査にゴーサインを出した。

もちろん、誰も弾劾(大統領の罷免)が実現するとは思っていない。トランプ自身、今回もロシア疑惑のときと同じ悪質な「魔女狩り」にすぎず、いくら調べても何も出てこないぞと強弁している。

しかし2つの疑惑の構図は根本的に異なる。3年前はトランプを勝たせるためにロシアが画策し、それにトランプ陣営が共謀したかどうかが争点だった。しかし今回はトランプ自身が疑惑の中心人物だ。現職大統領が自ら外国の指導者に電話して、私的な利益のために権力を乱用した疑いだ。しかも全ては米国内で起きている。

前回は、ロシアの工作員がヒラリー・クリントン陣営の電子メール記録を不正入手し、それをソーシャルメディアにばらまいて、結果的にトランプ陣営に加担した行為が問題とされた。トランプはその恩恵を被ったかもしれないが、犯罪の主役ではなかった(捜査への司法妨害も指摘されたが、事件の本筋からすれば、トランプは最後まで脇役だった)。

今回は違う。公開されたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との7月25日の電話会談の記録を見れば明らかなとおり、今回はトランプこそが主役だ。

ゼレンスキーがアメリカからの追加支援を要請し、アメリカ製対戦車ミサイルの購入を申し出ると、トランプは不可解な交換条件を持ち出していた。政府当局者が書き起こした通話記録によれば、こうだ。「ご希望に沿いたいとは思うが、こちらにもいろいろ問題があってね。そちらに情報があるはずだから、調べてほしいんだ」

卑劣なライバルつぶし

そしてトランプは、極右勢力の唱える奇怪な陰謀説を持ち出した。2016年の大統領選中に民主党全国委員会(DNC)のサーバーがハッキングされたとき、DNCはハードディスクなどに含まれる全データをコピーしてFBIに提出している。これは標準的な手続きなのだが、トランプの信ずる陰謀説によれば、ロシアによる介入をでっち上げたいFBIはあえてサーバー本体を押収せず、ひそかにウクライナに運んで隠したという。だから調べてくれ、とトランプはゼレンスキーに言った。「私は、あのサーバーはウクライナにあると聞いているんだ」

さらにトランプは、次の大統領選で民主党の最有力候補と目されるジョー・バイデン前副大統領の息子ハンターが役員に名を連ねるウクライナのガス会社ブリスマへの捜査をウクライナ当局が中止した経緯についても調査を依頼した。「バイデンは捜査を中止させたと得意げに話している。だから調べてほしい」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、年末年始の円先安観も

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中