最新記事

インドネシア

インドネシア警察、学生デモ鎮圧に実弾射撃で死者2名 取材記者にまで暴力

2019年10月2日(水)16時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

大学生2人の死因は実弾、警察は否定

9月26日には南東スラウェシ州クンダリ市でデモに参加していた地元大学生2人が死亡した。21歳の学生は胸の負傷、19歳のもう1人は頭部の負傷が致命傷となったというが、2人とも実弾による負傷が死因だったことがわかっている。

事態を重視したジョコ・ウィドド大統領は9月27日に大学生2人の死因に関して哀悼の意を示すとともに「徹底的な調査と捜査」を警察当局に指示したが、現地でデモ鎮圧にあたった警察側は「当時警察官はゴム弾しか所持していない」と実弾発射は警察官によるものではないとして火消しに躍起となっている。

しかしこれまでも「ゴム弾しか所持していないとする警察官が実弾を装填した銃を所持したり、実弾を発射したケースがあった」ことから地元マスコミなどは警察の「無罪主張」の弁明に深い疑いを抱いている。

取材陣を襲う警察、撮影素材消去を要求

そうしたなか、各地で事態収拾にあたる警察部隊の過剰暴力問題も浮上している。

「独立ジャーナリスト連盟(AJI)」は9月30日、一連の大学生のデモ取材をしていた記者が「警察に取材を妨害され、攻撃され、機材や撮影素材が取り押さえられるケースが多発している」と指摘。「報道の自由」の観点から治安当局に強い抗議を示した。

AJIによるとこれまでにコンパス紙の女性記者が国会近くで警察官の一般市民への暴力行為を撮影していたところ、写真と動画の消去を強要されたという。

さらにIDNタイムズの記者は警察官の学生への過剰暴力を撮影していたところ、警察官に襲撃され、やはり強制的に撮影素材を消去させられた。

このほかにテレビ局スタッフの三脚が破壊されたり、警察が投げ返す投石や催涙弾の被害に遭ったりするなどマスコミ取材が妨害される事態が複数報告されているという。

AJIでは報道法で規定された「メディアの取材を意図的に妨害した場合、最高刑で禁固2年罰金5億ルピア」という条文を挙げて、警察に実態捜査と当該警察官の処罰を求めている。

香港のデモ取材では現地入りしていたインドネシア人記者が香港警察のゴム弾を受けて負傷したニュースが大きく報道されたが、インドネシアでの大学生2人射殺のニュースも大きく取り上げられ、学生らデモ隊の怒りを増幅させるとともに警察、政府による「社会正義実現」の要求も高まっている。

10月1日に新たに召集された国会と10月20日に再選2期目の大統領就任式を迎えるジョコ・ウィドド大統領にとっては試練が待ち構えているといえる。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル157円台へ上昇、34年ぶり高値=外為市場

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中