最新記事

インドネシア

インドネシア警察、学生デモ鎮圧に実弾射撃で死者2名 取材記者にまで暴力

2019年10月2日(水)16時15分
大塚智彦(PanAsiaNews)

デモ隊に催涙弾を発射する警察 Antara Foto Agency - REUTERS

<民主化を求める学生たちと警察が対峙するのは香港だけではない。大学生2人が死亡する事態になっても実弾使用を認めない警察への批判が高まっている。>

香港で続く市民のデモに対して鎮圧に当たる警察部隊が実弾を発射し、高校生が重症になったことが報じられているが、インドネシアでも9月半ばから続く大学生を中心にしたデモでこれまでに大学生2人が死亡し、2人とも実弾による射殺だったことがわかり、警察批判が高まっている。

デモ鎮圧にあたっているインドネシア警察は「警察官はゴム弾だけしか装填していなかった」と弁明しているが、学生も国民もこの弁明を信用していない。

インドネシアではデモ隊に対する実弾射撃を含む過剰な鎮圧が香港と同じように社会問題となっており、学生や市民へ警察が暴力を振るう場面を撮影した地元紙記者が暴行を受けたり、撮影データや記録の消去を強要されたりする事態も起きている。

法案可決、採決巡り国会に抗議集中

インドネシア国会は9月17日に国家汚職撲滅委員会(KPK)を実質的に弱体化するKPK改正法案を国民の強い反対にも関わらず可決させてしまった。これまでKPKは捜査権、逮捕権、公訴権をもつ独立機関として現職閣僚や国会議長、国会議員、裁判官、高級官僚などの「巨悪の不正」を数々暴き、国民の喝采と信頼を集めていた「インドネシア最強の捜査機関」だった。

しかし今後は監視委員会の監視下に置かれ、公訴も最高検の判断を仰ぎ、1年以上公訴できない事案は立件を断念するなどその強力な能力が制限されることになった。

また国会では「婚外性交」や「婚外同棲」に関する規定の強化、「正副大統領に対する侮辱」「公人への批判」などの罰則強化という個人のプライバシー制限や「表現や報道の自由制約」につながる刑法改正案が9月24日に可決予定だったが、直前でジョコ・ウィドド大統領の「採決見送り要請」で延期となった。

このKPK改正法と刑法改正案という国会の「拙速な法案審議」が民主化を後退させかねないとして、大学生を中心にしたデモが9月中旬からほぼ毎週、首都ジャカルタなど主要地方都市で行われ、各地で警察部隊と激しく衝突する事態が続いている。


ジャカルタでのデモ隊と警察の衝突のようす KOMPASTV / YouTube


20191008issue_cover200.jpg ※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中