最新記事

台湾

「台湾のトランプ」フォックスコン創業者が、総統選の台風の目になる?

2019年9月13日(金)15時45分
ニック・アスピンウォール

郭は企業経営の手法から女性蔑視発言までトランプとの共通点が多い BILLY H.C. KWOK-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<政治経験ゼロのフォックスコン創業者・郭台銘が「第3の候補」として支持拡大を狙うが>

アップルの世界最大のサプライヤーである台湾企業・フォックスコン(鴻海科技集団)の創業者、郭台銘(クオ・タイミン、英語名:テリー・ゴウ)が来年1月の台湾総統選への無所属での出馬を真剣に検討している。

今年4月、68歳の郭はフォックスコン会長を退任する意向を表明し、最大野党・国民党の総統選候補者レースに名乗りを上げた。7月半ばの予備選で高雄市長の韓國瑜(ハン・クオユィ)に敗れたが、その後も人気の高い柯文哲(コー・ウェンチョー)台北市長との共闘をほのめかすなど出馬への意欲を見せてきた。

台湾随一の富豪として知られる郭は、トランプ米大統領を政治家のロールモデルと見なしていると言われる。実際、2人には多くの共通点がある。

どちらもビジネスで成功を収めた一方、政治経験はなく、女性蔑視発言でたびたび批判されてきた。フォックスコンの中国各地の工場で従業員の自殺が相次ぎ、賃金の不払いや過重労働、安全基準違反などの問題が数多く指摘されている点も、トランプ傘下の企業を彷彿させる。

最近注目を集めているのは、フォックスコンの中核企業である鴻海精密工業が2016年に買収したシャープの労働問題だ。シャープはiPhoneの部品製造を三重県の亀山工場からフォックスコンの中国の工場に移管し、人材派遣会社経由で雇っていた日系ブラジル人など約3000人を雇い止めにした。人材派遣会社が労組に対し、労働争議から手を引くよう威嚇する行為もあったとされる。

8月16日には台湾の鴻海精密工業本社前で、雇い止めに遭った外国人労働者や労組関係者が再雇用と賃金の補塡を求める抗議活動を行った。彼らはシャープの問題を、労働環境の整備を軽視するフォックスコンの経営姿勢の表れと非難している。

中台接近を恐れる若年層

鴻海精密工業は台湾内でも厳しい視線を浴びている。台湾のビジネス誌「天下雑誌」が発表した企業の社会的責任(CSR)ランキングでは、同社は大企業部門の50位にとどまった。

郭のビジネスセンスは確かに一流かもしれない。だが、人口動態の急激な変化の渦中にある台湾を率いる政治家としての能力は未知数だ。台湾は超高齢化社会に突き進む一方、優秀な若年層の中国やアメリカへの頭脳流出が続いている。

国民党予備選の最中だった6月、郭はiPhoneの製造を中国から台湾に移すようアップルに要請した。経済の活性化策を約束することで若い有権者にアピールしようとしたわけだ。しかし若年層の多くは台湾が中国に取り込まれることを懸念しており、中国とつながりの深い郭が中台接近を推し進めるのではないかという心配は払拭されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのガザ支援措置、国連事務総長「効果ないか

ワールド

記録的豪雨のUAEドバイ、道路冠水で大渋滞 フライ

ワールド

インド下院総選挙の投票開始 モディ首相が3期目入り

ビジネス

ソニーとアポロ、米パラマウント共同買収へ協議=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中