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丸山ゴンザレスだからこそ書けた世界の裏社会ルール

2019年9月4日(水)16時15分
印南敦史(作家、書評家)

そして裏社会のルール、3つ目は「アンチ警察」。これは全ての組織に共通しているというより、「比較的そういうところが多い」というあたりにとどまるそうだ。なぜなら、警察そのものが裏社会に近かったり、権力を握っていたりすることがあるから。

小規模な集団が組織化して組織同士が結びつき、大きな連合体に成長するという流れが起きるのは、民主主義の資本主義経済の国においてのこと。こういった国だと、組織の拡大に伴って警察との結びつきが強くなっていくのだという。もっと言えば、政府の力が強くなると、裏社会が一斉に取り締まられる。著者によれば、現在の日本がこの段階にあるそうだ。

一方、独裁国家や軍事国家では警察や軍の力が強すぎ、裏社会的な勢力は脆弱。アンダーグラウンド・マーケットのブローカー的な人間が大半になってきて、そうなると政府側の組織の一部は、警察が主体となって裏社会的な機能を果たすようになる。ギャング的な層が警察の下働きの扱いになるということだ。


どの段階にあるにせよ、裏社会と警察というのは、最終的には相容れない。日本でも、第二次世界大戦後の闇市でヤクザと警察が共闘関係にあったという闇の歴史がある。ある時期共闘関係があったとしても、最終的に相容れないのは、現代日本のヤクザと警察の関係を見れば明らかだろう。矛盾と非論理的な関係性を繰り返したりするのも現実として起こりうるのだ。(66〜67ページより)

こうしたルールがあるということは、理解できるようであり、分かりにくくもある。しかし、裏社会を見る側が頭の中を論理的にしてしまうと、混乱するのも仕方がないというのが著者の主張だ。

犯罪を生業とする人々や、そこで起きていることは、カタギ社会の価値観で考えると非論理的だからである。

また、もうひとつの注目点は、裏社会に生きる人々が思考停止状態にあることだとも言う。例えばロサンゼルスのフロレンシア13というグループに所属していたギャングは、「なぜ争っているのかわからない。上の世代が争っていたから自分たちも抗争する」と語っていたそうだ。

そこに、あらゆる争いごとにも共通する矛盾があると感じるのは、果たして私だけだろうか?


世界の危険思想――悪いやつらの頭の中
 丸山ゴンザレス 著
 光文社新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

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