最新記事

高齢化社会

日本を超える長寿国スペインの特効薬とは

Spain’s Formula to Live Forever

2019年8月29日(木)17時20分
ラファエル・ミンダー(ニューヨーク・タイムズ紙スペイン・ポルトガル特派員)

magw190829_Spain3.jpg

MARTA ORTIZ/ISTOCKPHOTO

そうしたなか、画期的な取り組みを行っているのが、独自の言語を持ち、長年にわたって高度な自治を目指してきたバスク州だ。同州はスペインの標準的な医療制度に、住民の身心の健康を生涯にわたって促進する工夫を組み込んでいる。

バスクはグルメ天国であることが自慢のタネ。スペインではこの数十年の間に、北東部カタルーニャのレストラン「エル・ブリ」(2011年に閉店)のフェラン・アドリアなど、大物シェフに代表される美食体験が大きな魅力の1つになっているが、こうした流れに大きな役割を果たしてきたのがバスクだ。

この地域では、ミシュランの星を獲得したレストランが23店に上る。地元には、コミュニティーを食で結ぶ伝統的な交流グループ「チョコ」が存在し、メンバーは定期的に集まっては一緒に食事を作って食べる。

社会的な結び付きを支えるチョコというシステムは単なる料理クラブの枠を超えて、病人・高齢者支援を補完的に担う組織を州内各地に生み出している。

一例が、会員530人を擁するパーキンソン病患者団体「アスパルビ」だ。年会費は80ユーロで、会員は北部ビルバオ郊外にある施設を好きなときに訪れ、言語聴覚療法を受けたりピラティスで体を動かしたりと、さまざまな活動に参加できる。

同団体は1994年、看護師の資格を持つベゴニャ・ディエス・アロラが創設した。きっかけは、母親がパーキンソン病と診断されたことだった。「母は当初、病気であることすら誰にも知られたがらなかった。この体験によって、病気を恥じて孤立すれば、どれほど速く状況が悪化するかということに気付いた」

「老人ホーム化」のリスク

バスク当局は1990年代に予防治療を重視する路線に転換し、市民のよりよい健康管理や検診による病気の早期発見にも力を入れてきた。乳癌や大腸癌に加えて、昨年には子宮頸癌の無料検診プログラムを開始。同様の制度はほかの地方にも存在するが、バスクほど広範囲に実施しているとは限らない。

「わずかな投資で大きな成果を手にできる」と言うのは、ビルバオ近郊の病院に勤務する医師、アマイア・エチェバリア・アルトゥナだ。「さもなければ、ほかの国のように、テクノロジーや医療機器、複雑にせずに済んだはずの問題の解決に巨額を費やす羽目になる」

事実、スペインの医療費は欧州のほかの多くの国に比べて少ない。OECD(経済協力開発機構)の最新データによれば、2018年の国民1人当たりの医療支出はフランスが約4965ドルで、ドイツが約5986ドル。一方、スペインは約3323ドルだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ初の女性大統領、シェインバウム氏勝利 現政

ワールド

エルニーニョ、年内にラニーニャに移行へ 世界気象機

ワールド

ジョージア「スパイ法」成立、議長が署名 NGOが提

ビジネス

アングル:認証不正が自動車株直撃、押し目買い機運削
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 6

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 9

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中