最新記事

台湾

香港デモの追い風が対中強硬派・蔡英文を救う

Xi is Tsai’s Best Poster Boy

2019年7月16日(火)18時30分
ヒルトン・イプ

中国が提唱する一国二制度を拒否し続けてきた蔡英文総統 Eduardo Munoz-REUTERS

<香港デモの余波で台湾・民進党の予備選を逆転――親中派の国民党候補者が失速気味のなか生真面目な女性総統が一気に反転攻勢を目指す>

このところ香港が国際社会の注目を集めている陰で、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が新たな勝利を手にした。来年1月に実施される台湾の総統選に向けて、与党・民主進歩党(民進党)は6月13日に公認候補を選ぶ予備選を実施。蔡が8.2ポイント差で勝ち、台湾独立を公言している頼清徳(ライ・チントー)前行政院長(首相)との一騎打ちを制した。

昨年11月の統一地方選挙で民進党は大敗を喫し、蔡は現職の総統としては屈辱的となる予備選敗退もささやかれていたが、意外なところから追い風が吹いた。親中国の香港政府に抗議する香港市民が、中国政府に脅威を感じている台湾市民を活気付けたのだ(頼も対中強硬派だが、蔡の現職としての経験や最近強硬姿勢を強めていたことが台湾市民の心を捉えた)。

とはいえ、来年の総統選は厳しい戦いになりそうだ。最大野党・国民党から名乗りを上げている有力候補は、典型的なポピュリスト政治家で高雄市長の韓國瑜(ハン・クオユィ)と、iPhoneを製造するフォックスコン(鴻海科技集団)の創業者で台湾屈指の大富豪、郭台銘(クオ・タイミン)。国民党は7月8~14日に一般市民に電話で世論調査を行い、公認候補を決める(国民党は15日、韓國瑜が公認候補に決まったと発表)。さらに、親中で穏健派の台北市長、柯文哲(コー・ウェンチョー)も無所属で出馬を検討している。蔡の再選を阻止するために中国共産党が介入を強め、武力による威嚇も辞さないとみられている。

アジアでもとりわけ自由な民主主義社会国の台湾で、蔡は混乱の時代の舵を取り、いくつもの荒波を乗り越えてきた。粘り強さを発揮し、好戦的な姿勢を強める中国とその独裁者・習近平(シー・チンピン)国家主席と対峙してきた。

ただし、国内の支持率は低迷している。景気停滞の責任を問われ、年金改革で世論の不評を買い、外交では孤立を深めている。昨年11月の統一地方選挙で大敗した民進党は、南部の中心都市の高雄など重要な支持基盤を失った(韓はこのとき高雄市長に初当選している)。

民進党の予備選で蔡の援軍となったのは、香港市民の抗議デモだ。香港政府が犯罪容疑者の身柄を中国本土に引き渡せるようにする逃亡犯条例改正案に反対して、6月9日に100万人規模のデモが街を埋め尽くした。

香港市民が中国への不信感を募らせる光景を見て、不安を覚えない台湾市民がいただろうか。

手のひらを返した韓國瑜

蔡は16年の総統就任以前から、中国に対して強い姿勢を示してきた。台湾は「一国二制度」を受け入れないと明言。「一つの中国」の原則を堅持しつつ、その解釈は各自で異なることを認めるとした92年コンセンサス(九二共識)を否定している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BofAのCEO、近い将来に退任せずと表明

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

家計の金融資産、6月末は2239兆円で最高更新 株

ワールド

アブダビ国営石油主導連合、豪サントスへの187億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中