最新記事

AI

キッチン用品と交換で顔データ収集 中国で急成長の産業

2019年7月15日(月)19時13分

弱いプライバシー保護法制、安い人件費

データ収集・分類産業の主要な中心地として台頭しているのが中国だ。共産党政権の支援を受けた新興のAIセクターからの飽くことのない需要が支えとなっている。中国政府は、AIを経済成長の原動力、社会統制のツールと考えている。

多くの企業が、いわゆる機械学習と呼ばれるAI分野に巨額の投資を進めている。データのなかにパターンを見出すことを基礎とする、顔認識テクノロジーなどのシステムの柱となる部分だ。

こうした企業のなかには、アリババ・グループ・ホールディングや騰訊控股(テンセント・ホールディングス)、百度(バイドゥ)といった巨大テクノロジー企業もあれば、AIに特化したセンスタイム・グループや音声認識の科大訊飛(アイフライテック)といった比較的新しい企業もある。

結果として中国では、顔認識テクノロジーに基づく決済システムから自動監視システム、さらには国営メディアに登場したAIで動くアニメによるニュースキャスターに至るまで、AI製品・サービスが増殖している。

中国国内の消費者はこうしたテクノロジーを斬新で未来的なものと受け止めることがほとんどだが、プライバシー侵害の程度が高いアプリケーションに関しては懸念の声も一部で上がっている。

中国がAI分野でのグローバル・リーダーをめざすうえで、プライバシー保護法制の弱さと人件費の安さは競争優位となっている。河南省の村の住民たちは、数回の撮影をこなしてティーカップを、あるいは数時間の撮影と引き替えに鍋をもらって満足している。

顧客は海外にも

有力なデータ分類企業であるベーシックファインダーは、北京に本社を置いているが、河北省、山東省、山西省にも拠点を有し、国内外でしっかりとした顧客基盤を築いている。

同社の北京本社を訪れたところ、何人かのスタッフが眠そうな人々の画像を分類していた。居眠り運転をしそうなドライバーを特定するための自動運転プロジェクトに使われる予定だという。

他のスタッフは、欧米のオンライン祖先検索サービス向けに英国の19世紀以降の文書の分類作業を行っており、出生証明書・死亡証明書の日付、氏名、性別の欄にマーキングを施していた。

ベーシックファインダーのデュー・リンCEOによれば、熟練した分類スタッフを中国で雇用する方が、西側のクラウドソーシング市場を利用するよりも安上がりだという。

プリンストン大学による自動運転関連プロジェクトでは、当初アマゾンのメカニカル・タークに業務を委託していたが、業務が複雑になるにしたがって受託者がミスをする例も増えてきたため、結果の修正を支援するためにベーシックファインダーに声がかかった、とデュー氏は言う。

このプロジェクトでは、クラウドソーシングで集めたスタッフ3人分の業務を、ベーシックファインダーの熟練分類スタッフ1人で処理できたという。「我々に委託する方が分類業務のコストが安くなることが徐々に分ったので、最初からすべてを我々に発注することになった」

プリンストン大学はコメントを控えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価は再び安定、現在のインフレ率は需給反映せず=F

ワールド

ハセット氏のFRB議長候補指名、トランプ氏周辺から

ワールド

ゼレンスキー氏と米特使の会談、2日目終了 和平交渉

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 9
    世界の武器ビジネスが過去最高に、日本は増・中国減─…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中