最新記事

医療

抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ

WE SHOULD ALL BE SCARED

2019年7月5日(金)10時20分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

セリームは、血流中に入り込んだ致死的な耐性菌の消毒にもレーザー光の活用が可能だと考えている。患者を血液循環装置につなぎ、管を通る血液にレーザーを照射することで「血液を体外に取り出して殺菌し、再び体内に戻す」方法が考えられると彼は言う。

一方で研究者たちは、今も新たな抗生物質発見の希望を捨てていない。1928年、イギリスの細菌学者アレクサンダー・フレミングが研究所に置きっぱなしにしていた培養皿に奇妙な緑色のカビを見つけたことから、抗生物質革命は幕を開けた。

これ以降、研究者たちは自然界のあらゆる場所で、次なる偉大な細菌キラーを見つけようとしてきた。

最近の複数の研究によれば、耐性菌さえも死滅させる(ただし人間の体内に入っても安全な)新たな物質は昆虫や海草、魚類の粘液、ヒ素を豊富に含むアイルランドの泥や火星の土に含まれている可能性があるという。またライデン大学(オランダ)では、人工的に生成した細菌を微調整して新たな抗生物質をつくる研究が始まっている。

mags190704-germ02.jpg

アオカビが細菌の生育を阻止しているのを偶然見つけたフレミングは世界初の抗生物質ペニシリンの発見者になった(1955年、ロンドンの研究所) PETER PURDYーBIPS/GETTY IMAGES

抗生物質の乱用に歯止めを

耐性菌の進化を遅らせて、今ある抗生物質を有効に活用しようという考え方もある。前提条件は、耐性菌の進化を促す抗生物質の乱用をやめること。耐性菌は一つの場所で発生したものが拡散されることが多いため、国際的な取り組みが必要になる。

複数の研究によれば、世界の抗生物質の大半は処方箋なしで販売されており、これが一因となって、00〜15年にかけて世界の抗生物質使用量は65%も増加した。その結果として出現した耐性菌が、国外旅行者の体内に入り込んで世界中に広まっている。

患者側にも果たすべき役割がある。軽い鼻づまりや尿路感染症でも医師に抗生物質の処方を求める患者がおり、これが抗生物質の乱用に、ひいては耐性菌の誕生につながっている。

マサチューセッツ州の公衆衛生当局は10年以上前から、医師にも患者にも抗生物質の使用量を減らすよう強く促してきた。この取り組みの結果、同州ではこの4年で抗生物質の処方量が16%減少した。これは私たちが負け続けている大きな戦争における、小さな勝利と言えるかもしれない。

だが10年か20年前に容易に予見できたはずの危機に目をつぶってきたことのツケを、私たちは嫌でも払わねばならない。エボラ熱のような致死性の高いウイルスの大流行とまではいかなくとも、耐性菌への感染は今後ますます多くの人の運命を左右することになるだろう。

何しろ1月にコロンビア大学で見つかったような耐性大腸菌を撃退する新戦略の構築に全力で取り組んだとしても、その成果が得られるまでには10 年以上もかかるのだ。

<本誌2019年6月18日号掲載>

cover0709.jpg
※7月9日号(7月2日発売)は「CIAに学ぶビジネス交渉術」特集。CIA工作員の武器である人心掌握術を活用して仕事を成功させる7つの秘訣とは? 他に、国別ビジネス攻略ガイド、ビジネス交渉に使える英語表現事例集も。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ

ビジネス

英中銀総裁「AIバブルの可能性」、株価調整リスクを

ビジネス

シカゴ連銀公表の米失業率、10月概算値は4.4% 

ワールド

米民主党ペロシ議員が政界引退へ 女性初の米下院議長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    ファン熱狂も「マジで削除して」と娘は赤面...マライ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中