最新記事

ドラマ

人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』が問う、国と正義と人の倫理

GoT Makes Us Think About Good and Evil

2019年6月22日(土)15時10分
ダイアン・ウィンストン(ジャーナリスト)

モスクワで開催された最終シリーズ最終話の上映会(今年5月) Maxim Shemetov-REUTERS

<予期せぬ展開にファンは何を学べばいいのか>

筆者の娘は腹を立て、夫はあきれ果てた。人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の終わり方があまりに意外で、あまりに残酷だったからだ(まだ見ていない方にはネタバレになってしまうが、悪しからず)。

善人であるはずの女王デナーリスが、事もあろうにライバルの都を冷酷に焼き尽くし、皆殺しにするなんて(最終シーズン全6話中の第5話)、信じられない。許せない。

わが家だけではない。ネット空間にはたちまち落胆の声があふれ返り、彼女の真意や動機についての臆測が飛び交った。悪人の本性が現れたのだ、いや当然の報いだ、いや制作陣が血迷ったのだ......。制作局HBOには、脚本を変えて最終シーズンを撮り直せという130万人超の署名が集まったとか。

こんなにも反響が大きいのはなぜか。デナーリスの動機がどうのこうのという以上に、この覇権をめぐるゲームの全体が、現代を生きる私たち自身の争いに重なって見えるからだ。

『ゲーム・オブ・スローンズ』はテレビドラマの傑作だ。中世のイギリスを思わせる舞台に圧倒的な映像美、巧みな人物造形、意外な展開の連続。超のつく壮大なスケールで、善人も悪人も奥が深い。だからこそ私たちは8年も飽きずに見てきた。

これぞ物語の醍醐味だ。一回ごとに新しい発見があり、そのたびに私たちは考えさせられ、それを誰かに話したくなってしまう。そんな力を秘めた物語は偉大な宗教の聖典に似ている。聖典が説く善悪や人の弱さ、犠牲や贖罪、欲望とその放棄などの物語を通じて私たちは学び、その学びを共有するコミュニティーを形成する。偉大なドラマにも、そういう力がある。

昔の人が寓話や神話の意味を読み解こうとしたように、私たちはこのドラマの思わぬ展開の意味を探ろうとする。デナーリスが宿敵の城を焼き払ったのはなぜかと考え、ネット上で熱い議論を戦わせる。

なぜだろう。誰もがデナーリスの選択を目の当りにして、自分ならどうするだろうと考えてしまうからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

伊プラダ、さらなる買収検討の可能性 アルマーニに関

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と21日会談 ホワ

ワールド

マクロスコープ:日中関係悪化、広がるレアアース懸念

ワールド

アジアのハイテク株急伸、エヌビディア決算でAIバブ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 8
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中