最新記事

ロシア疑惑

「トランプ大統領が潔白とは言っていない」──ロシア疑惑のムラー特別捜査官が沈黙破る

Mueller Speaks: Charging Trump Was ‘Not an Option’

2019年5月30日(木)16時40分
ラムジー・タッチベリー

司法省で声明を発表したムラー Jim Bourg-REUTERS

<司法省の一部署として現職大統領の起訴できる選択肢は最初からなかったが、議会ならそれも可能と示唆>

2016年の米大統領選へのロシアの介入疑惑に関する448ページの捜査報告書が、多くの部分を黒塗りされた状態で公開されてから1カ月半近く、沈黙を守ってきたロバート・ムラー特別検察官が5月29日、初めて公の場に姿を表し、自身が率いた捜査について口を開いた。

ムラーは特別捜査官を辞任すると表明し、2年間に及んだ捜査について今後話すことはないだろうと述べて、議会で証言する意思がないことも明らかにした。また司法省には長年、現職の大統領を連邦法違反で起訴することを禁じた指針があるため、ドナルド・トランプ米大統領を起訴することは「選択肢になかった」と明かし、起訴すれば「憲法違反」になるとも述べた。

「特別検察官事務所は司法省の一部であり、司法省の方針を守らなければならない」と、ムラーは司法省で行われた記者会見で説明した。「従って、大統領を起訴することは、われわれの選択肢ではなかった」

だが、そうかといって大統領が無罪というわけではない。「大統領が明らかに罪を犯していないという確信があれば、(報告書でもこの場でも)われわれははっきりそう述べただろう」と明言した。

「より広範な陰謀を告発するには証拠が不十分だった。しかし大統領が罪を犯したかどうかについては、われわれは結論を出していない」

議会では証言しない

記者会見は、下院司法委員会がトランプの弾劾審問の開始の是非について検討し、ムラーと司法省に公聴会での証言を求めているなかで行われた。民主党指導部は政治的リスクを考慮して弾劾には及び腰だが、司法委員会の有力メンバーをはじめ、民主党内では弾劾手続きに入るべきだとの声が高まっている。

「現職の大統領を不正行為で正式に起訴するには、合衆国憲法は、刑事司法制度以外の手続きを求めている」と、ムラーは述べた。これは、議会には大統領の罪を問う権限がある、と示唆した発言ともとれる。

下院司法委員長を務める民主党のジェロルド・ナドラーは先週、ムラーは表に出て発言することはやぶさかではないものの、「政治的な見世物」になるのを避けるため「非公式な形で証言したがっている」とMSNBCに語った。民主党の司法委員会のメンバーはこれには満足せず、ムラーが公聴会に出て、675日にわたる捜査で判明したことを話し、ウィリアム・バー司法長官の発表はどこまで正確だったのかを明らかにすべきだと、一貫して主張してきた。

ナドラーは今月に入り、ムラーに公聴会で証言するよう求めたが、ムラーが応じないため、召喚状を出す可能性もあると警告していた。

記者会見でムラーは、議会で証言するつもりはなく、最終報告書が「私の証言」だと断言した。

「特別検察官事務所からは、いかなる形であれ、われわれの報告書以上の証言は出てこない。報告書にはわれわれの発見と分析、われわれが下した決定の理由が書かれている。われわれは慎重に言葉を選んで書いた。それを読めば全て明らかなはずだ。報告書が私の証言だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米下院、エプスタイン文書公開義務付け法案を可決

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中