最新記事

イラン

イラン戦争に突き進むアメリカ

Trump’s Iran Policy Is Becoming Dangerous

2019年5月9日(木)17時00分
コリン・カール

これに対抗してイランは、自国沖合のホルムズ海峡(世界の原油輸送の約20%を占める重要ルート)を封鎖すると警告した。さらにイラン政府筋によると、自国の宿敵であり、トランプ政権のイラン制裁を後押ししているサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の原油輸出を妨害するため、バブ・エル・マンデブ海峡と紅海を航行する石油タンカーを攻撃するか、この2国の重要なインフラをサイバー攻撃で破壊する可能性もあるという。

トランプ政権は締め付けを一層強化するため、イランの精鋭部隊である革命防衛隊をテロ組織に指定した。アメリカが他国の軍隊をテロ組織に指定するのはこれが初めてだ。これに対抗して、イランの国防・外交を統括する最高安全保障委員会は、中東などを管轄する米中央軍を「テロ組織」、アメリカを「テロ支援国家」に指定した。

イラン限界で核開発再開か

一方で、イラン指導部は核開発の再開も検討しはじめているようだ。これまでイランは核合意で約束された経済的な恩恵をほとんど受けていないにもかかわらず、履行義務を守り、ウラン濃縮などの活動を自粛してきた。この1年程イランは、アメリカの制裁の理不尽さを国際社会に訴えつつ、2020年の米大統領選でトランプ政権が退陣するまで、何とかしのごうとしているようだった。

だが5月8日、イランのハサン・ロウハニ大統領は核合意の履行の一部を即時停止すると宣言し、初めて核合意に逆行する決定を下した。アメリカの反応は激しかった。トランプは即日、金属の輸出を禁止する追加制裁をイランに科す大統領令に署名した。

今や、核開発再開を自粛すべきだというイランのエリート層の政治的合意は崩れつつある。中部のフォルドウにある地下核施設で、核合意の制限を越えて低濃縮ウランの備蓄を増やすか、高濃縮ウランの製造を再開する可能性があると、イラン高官は示唆した。核合意の一部停止だけでなく、政権内には核合意からの完全離脱を主張する声さえあるとジャバド・ザリフ外相は述べた。今すぐこうした極端な措置を取る可能性は低いものの、イランの我慢が限界に達しつつあるのは間違いない。

2018年5月8日にトランプが核合意離脱を表明してから1年、今や制裁と報復の連鎖がエスカレートし、緊張はピークに達している。軍事対決のリスクは日々高まる一方だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、米特使と和平案巡り会談 欧州に「戦う準

ワールド

ハマス、新たに人質1人の遺体を引き渡し 攻撃続き停

ワールド

トランプ氏、米国に違法薬物密輸なら「攻撃対象」 コ

ビジネス

米経済、来年は「低インフレ下で成長」=ベセント財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 6
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 7
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中