最新記事

イラン

イラン戦争に突き進むアメリカ

Trump’s Iran Policy Is Becoming Dangerous

2019年5月9日(木)17時00分
コリン・カール

2010年にイランの革命防衛隊がホルムズ海峡で実施した軍事演習 REUTERS/Fars News

<トランプ政権高官は「イランはアルカイダとつながっている」と言う。イランを追い詰めるアメリカの政策の背景には、イラク戦争を彷彿とさせる論理がある>

ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は5月5日、イランにあからさまな警告を突きつけた。

空母エイブラハム・リンカーンを中心とする打撃群と爆撃部隊をペルシャ湾に派遣すると発表したのだ。「アメリカと同盟国の利益に対するいかなる攻撃も、容赦ない武力行使を招くという、明白で間違いようがないメッセージを送る」ためだ、とボルトンは述べた。「(アメリカは)イランと戦争をするつもりはないが、あらゆる攻撃に対応できる十分な用意がある」

何がきっかけで米軍の派遣が決まり、ボルトンが脅迫めいた発言をしたのかははっきりしない。当初の報道によれば、イランが支援するイスラム教シーア派の武装勢力がイラクに駐留する米軍に対する攻撃を計画している兆候があり、それを封じるためだということだった。イランが近々、湾岸地域におけるアメリカの権益、人員、もしくは同盟国を攻撃するという情報がイスラエルから入った、という報道もあった。

いずれにしろボルトンはこれまでも、武力行使を正当化するためにたびたび情報を誇張し、操作してきた男だ。そのため今回の件もボルトンの自作自演の危機扇動劇とみる向きもあるだろう。だが、イランの行動が引き金となって大規模な軍事衝突が起きる可能性は十分にある。緊張を高めているのは、イランを追い詰めるトランプ政権の政策そのものなのだが。

互いをテロ支援国家呼ばわり

ボルトンの警告の背景には、アメリカとイランの緊張が急速に高まっている状況がある。ドナルド・トランプ米大統領は1年前、イランと米英など6カ国が2015年に交わした核合意からの離脱を表明。イランを経済的に締め付け、現体制を不安定化させるために、金融、石油部門などを標的にした経済制裁を復活させた。イラン経済は大打撃を受けたが、トランプ政権が最大限の圧力をかけても、今のところイランは核合意の再交渉に応じる姿勢も、テロ支援や地域の武装勢力へのテコ入れを自粛する姿勢も見せていない。かくて、締め付け政策は失敗に終わったが、トランプ政権はそれを見直すどころか、圧力を倍加させている。

イランの現体制を崩壊寸前に追い込むため、米政府は4月末、イラン産原油輸入禁止の適用除外を打ち切ると発表した。中国、インド、日本、韓国、トルコなどはこれまで日量約100万バレルまで輸入できたが、それができなくなる。米政府は打ち切りの目的を、イラン経済の生命線である原油輸出を可能な限りゼロに近づけることと説明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中