最新記事

写真

「平成最後の日」に見た「令和に受け継がれてゆく桜」

2019年4月30日(火)21時50分
内村コースケ

平成最後の「散り際の桜」

7R309262.jpg

散り際の深叢寺参道の高遠コヒガンザクラ=長野県諏訪郡原村・2019年4月30日撮影

2019年4月30日の蓼科の朝は、雨上がりの濃い霧に包まれたひんやりとした気候だった。車で原村の深叢寺に着くと、桜は予想通り散り際に差し掛かっていた。本堂まで続く参道は、両側の桜並木から散ったピンク色の花びらで覆われていた。

ソメイヨシノに比べて小ぶりで赤みの強い高遠コヒガンザクラの花は、高原の冷涼で引き締まった空気にふさわしい、きりっとした風情を感じさせる。深叢寺は、小さな村の小さなお寺で、普段は観光客が押し寄せるような所ではないが、この日は他県ナンバーの車も数台停まっていて、家族連れが桜並木にカメラを向けている姿が見られた。

僕も早速、カメラを手に参道に向かう。並木道の中間点にある山門付近に構図を合わせると、サーッと高原の冷たい風が吹き、風に舞う花びらがファインダー越しに見えた。その絵は僕にとっての「平成最後のイメージ」となって、ずっと心の片隅に残るだろう。



令和にまたぐ「咲き始めの桜」

7R309025.jpg

霧の中で花をつけ始めた聖光寺の桜=長野県茅野市・2019年4月30日撮影

有名な観光名所になっている聖光寺の方には、20台ほどの乗用車と大型観光バスが1台停まっていた。それでも、例年の満開時に比べれば人影は少ない。蓼科湖から道路を隔てた所にある広い境内は、約300本のソメイヨシノで埋め尽くされている。朝の高原の濃い霧の中、山門脇の桜の木に近づくと、ポツポツと花をつけはじめているのが確認できた。

開いたばかりの初(うぶ)な花びらには、水滴がついていた。そんな霧に浮かぶ初々しい桜も良いではないか。隣でカメラを向けていた男女に声をかけると、同じことを考えていたという。写真の教え子と撮影に来たという、地元写真家の51歳男性は、「平成最後というのは特に意識していなかったなあ。でも、霧の中の桜ってなかなかないじゃない。青空をバックにした満開の桜もいいけれど、良い時に来たと思いますよ」と話していた。

最も花が開いていたのは、本堂の近くの鐘つき堂脇に立つひときわ大きなソメイヨシノとシダレ桜だった。その前でご両親の記念写真を撮っていた若い女性に声をかけると、平成元年生まれだと明かしてくれた。千葉県から家族でバスツアーに参加し、富士五湖方面からここまで、季節の花だよりを巡ってきたという。

「平成最後」の先にある継続性

7R308953.jpg

「平成最後の日」に蕾をつけていた聖光寺の桜=長野県茅野市・2019年4月30日撮影

聖光寺では、8組の観光客やカメラマンに声をかけたが、「平成最後の桜」を意識していたのは、一眼レフカメラを構えていた東京の47歳の男性1人だけだった。この人は、花をメインに撮っているアマチュアカメラマンで、これまで各地で「平成最後」を念頭に桜などを撮ってきたという。

一方、鐘つき堂脇のソメイヨシノを撮っていた横浜市の49歳の男性は、こう語った。「時代の区切りではありますが、自然はずっと同じように続いていくわけじゃないですか。桜の姿からは、むしろそんな継続性を感じます」

それは、僕がこの2019年4月30日の桜の姿に感じていたことと、全く同じだった。令和に移行するGW後半には、深叢寺の桜は葉をつけ、聖光寺の桜は満開になっているだろう。そして、その自然のサイクルは、この先もずっと続いてゆく。今日のこの日の桜は「平成最後の桜」ではなく、「令和に受け継がれてゆく桜」だったのかもしれない。

余談だが、撮影に同行してくれた僕の飼い犬の『マメ』は、この平成最後の日が15歳の誕生日だった。

7R309311.jpg

「平成最後の日」に15歳の誕生日を迎えたフレンチ・ブルドッグ『マメ』=長野県諏訪郡原村深叢寺2019年4月30日撮影
Í

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中