最新記事

韓国経済

「日本越え」韓国経済の落とし穴

2019年4月3日(水)17時00分
武田 淳(伊藤忠総研チーフエコノミスト)

韓国国民の中では財閥へのあこがれと憎悪が交錯する(贈賄罪などで起訴されたサムスン電子副会長を模した人形、ソウルで今年3月)Kim Hong-Ji-REUTERS

<韓国経済が減速している。これまでじわじわ成長を続け日本に迫ってきたが、長年の「持病」が足を引っ張る。政治的なケンカが続けば日韓はどちらも得をしない>

韓国経済の2018年の成長率は、前年の3.1%増から2.7%増へ減速した。この数字は2年ぶりとなる3%割れのみならず、2012年に記録した2.3%増以来の低成長率だったことから、景気の停滞感を強く感じさせた。リーマン・ショック後の韓国経済は概ね3%前後の成長を続けてきたため、3%を大きく割り込む成長率に物足りなさを感じる向きは少なくない。

成長減速の主因は、サムスンなど半導体業界で次世代製品向けの投資が一巡したことに加え、2018年2月に開催された平昌冬季五輪の関連需要が剥落したことにある。さらに、韓国経済の柱である輸出が主に中国向けを中心に、財別では主に半導体関連で2018年終盤に落ち込んだため、国内投資の減少をカバーできなかった。

接近する日韓の経済力

ただ、それでも1%程度の成長ペースを巡航速度とする日本と比べれば、韓国の成長率ははるか高い。日韓の成長率の違いは約2%ポイントあり、その分だけ両国の経済規模は接近することになる。また、米ドルベースで2012年以降の日本円と韓国ウォンの動きを見ると、日本円はドルに対して約4割も下落したが、ウォンは対ドルでほぼ横ばい推移だった。つまり、為替変動だけで両国の経済力は2012年以降の6年間で4割も縮小したという見方になる。

こうした成長率や為替相場の動きを反映して、経済水準を示す代表的な指標である1人当たりのGDPは、韓国で2012年の2万4000ドルから2018年には3万2000ドルまで上昇した一方で、日本は4万8000ドル台から4万ドルへ低下した。つまり、2012年に2倍の開きがあった両国の経済水準は、その後の円安進行もあって急速に接近し、その差は2018年に25%まで縮まっているわけである。

韓国「日本越え」シナリオの現実味

今後も日本の1%成長、韓国の3%成長が続けば、10年余りで両国の経済水準(1人当たりGDP)に差がなくなる計算となり、これに円安ウォン高が加われば、数年で韓国が日本を追い越すというシナリオも現実味を帯びてくる。最近の韓国は、北朝鮮に対する独自のアプローチで明らかとなったように、日本バッシングならぬ「日本パッシング(無視)」の傾向が見られるという指摘もあるが、その背景には、こうした経済面における日本の優位性の低下、少なくとも韓国側から見れば永年の目標であった日本へのキャッチアップを達成した感があるのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米政府閉鎖解除で統計発表再開、12月利下

ビジネス

マスク氏とフアン氏、米サウジ投資フォーラムでAI討

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中