最新記事

東南アジア

インドネシア、パプアの戦闘激化で国軍兵士600人増派 治安維持に躍起

2019年3月10日(日)20時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

パプア州で武装勢力との軍事衝突で亡くなった兵士の遺体は無言の帰還をした。 Antara Foto Agency - REUTERS

<4月の大統領選をにらみ治安維持に力を入れる政府だが、パプアで衝突する組織を独立武装勢力とを認めざるを得ない状況に>

ニューギニア島の西半分に位置するインドネシア領最東端のパプア州で国軍と武装勢力による戦闘が激化している。国軍兵士に死傷者がでるなど治安状況が極端に悪化する事態を受けて国軍は兵士600人を現地に増派することを決めた。

インドネシア政府はこれまで現地で国軍と衝突を繰り返す武装組織を「武装犯罪組織」とみなして対処してきたが、政府部内からは「犯罪組織」との見方を修正して「独立を求める武装組織」とするべきとの意見が出始めた。

犯罪組織であれば対応は第一義的には警察が対応、対処することになるが「独立組織」であれば軍が前面に出て作戦を実行することが可能になるためだ。

インドネシアは4月17日に大統領選、国会議員選挙、地方議会選挙を控えており、社会情勢の安定が急務となっており、軍や警察が社会不安を煽る反政府活動、フェイクニュースの拡散、暴力行為などと同時にテロなどの不測の事態に警戒態勢を強めている。

そうしたなかでパプアでは軍の部隊が急襲され兵士3人が死亡する事件が3月7日に発生。政府、軍内部に事態を重視して早急な治安回復を求める声が大きくなっているのだ。

かつてのDOMで唯一独立運動続く地域

パプア州はかつてスマトラ州最北のアチェ州、2002年に独立を果たした東ティモールと並んで「軍事作戦地域(DOM)」に指定され、インドネシア国軍と独立武装組織による戦闘が繰り返された経緯がある。アチェは2004年のスマトラ沖地震・津波を契機にイスラム法が適用される特別州となり、東ティモールは独立し、パプア州だけがDOM解除後も細々とではあるが独立を求める武装組織「自由パプア軍(OPM)」による武装抵抗運動が続いていた。

そういった小規模の衝突が続いていた2018年12月2日、パプア州中部山岳地帯のンドゥガ県イギ郡で工事中のパプア縦断道路の建設現場が「正体不明の武装組織」(国軍発表)によって襲撃され、出稼ぎ労働者など19人が殺害される事件が起きた。

大統領選や総選挙を控えた国民や政権に治安状況の悪化が与える影響を考慮した国軍は「武装した犯罪組織による犯行」との見方を示し、警察と軍による現地治安維持の強化と「犯罪組織」の捜査に着手した。

しかし、深いジャングルや峻険な山間部を利用した「犯罪組織」に対して、ヘリコプターや車両を使用するなどの機動力と兵力を投入しても一向に捜査は進まず、各地で不穏な動きや小規模衝突が続いていた。

インドネシアの一部マスコミや外国報道機関は当初から「OPMかその分派による独立武装組織による襲撃」との見方を示していたが、治安当局はあくまで「犯罪組織」と強調して独立組織が関与した治安悪化の影響を最小限に留めようとしていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京海上、純利益予想を下方修正 外貨間為替影響やア

ビジネス

農林中金、4ー9月期の純利益846億円 会社予想上

ワールド

EUは来月の首脳会議で融資承認を、ウクライナ高官「

ビジネス

午後3時のドルは155円前半、財務相・日銀総裁会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中