最新記事

フランス

日本とフランスの狭間に落ちたゴーンとJOC竹田会長の座標

2019年1月21日(月)14時30分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

なお、2年前から予審捜査がされているのに今の時期にMise en examenになったのでゴーン氏への意趣返しだなどという憶測があるが、決してそんなことはない。だいたい、フランス政府にゴーン氏を擁護しようなどという気はない。ましてや司法はさらに独立している。2年もかかったのは、国際金融犯罪の難しさで、辣腕のヴァンリンベック予審判事でさえまだまだ解明しきれないのだ。

ゴーン氏は、海外逃亡や証拠隠滅、関係者への圧力などのリスクがあるので、フランスであっても勾留されていたかもしれない。勾留期間は4カ月で延長には自由勾留判事の許可がいる。普通は最高1年だが、場合によっては2年になることもある。 

ただ拘置の条件はフランスとは大いに異なっている。フランスでは、拘置所と刑務所は一緒だが、パリのサンテ刑務所にはVIP房がある。

同刑務所は改装が終わったばかりなので、現在はどうなっているかわからないが、前の状況についていくつかのマスコミのルポがある。それによると、普通は7平方メートルだが、VIP房は2部屋で14平方メートル。もちろん個室でトイレにはドアがある。洗面台、テーブル、いす、DVDモニターも買える。いつでもシャワーに入れ、一般の区画の囚人とは接触せず、一緒に中庭で運動することはないが、この区画専用のスポーツ室があり、筋トレができる。また、休憩室でトランプやチェスもでき、煙草も吸え、囚人同士で食事もできる。一般囚人は廊下掃除などするが、彼らはしない。高級スニーカーをプレゼントして、一般囚人に房を掃除させた者もいる。

他の囚人と同じ扱いに喝采も

このようなVIP待遇にはフランス国内でも批判があり、ゴーン氏が他の囚人と同じ待遇であるということに喝采する人も多い。ゴーン氏の場合も、レバノンやブラジルなどに逃亡されたら終わりだから拘置自体は外国でも理解されうるだろう。だが、勾留や拘置取り調べのやり方その他の手続きについては批判があっても仕方あるまい。

さて、竹田氏の今後だが、被疑者になってから、起訴不起訴の決定にはさらに最低でも1年はかかる。フィヨン氏も大統領選このときから1年半かかってようやく起訴が決まった。竹田氏の場合、シンガポールのトンネル会社の実質的所有者(元陸連会長の息子)がセネガルに逃亡し、引き渡しされず、取り調べもできないので、もっとかかるかもしれない。

hirooka-prof-1.jpg[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

デギンドスECB副総裁、利下げ継続に楽観的

ワールド

OPECプラス8カ国が3日会合、前倒しで開催 6月

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ワールド

ロ凍結資金30億ユーロ、投資家に分配計画 ユーロク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中