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国籍売ります──国籍という不条理(1)

2019年1月29日(火)17時50分
田所昌幸(慶應義塾大学法学部教授)※アステイオン89より転載

だが、国家の正式なメンバーとして、こういった居住・就業などの権利を当然に享受できる地位である国籍は、普通まったく本人の意思や努力とは無関係の、出生地や血縁という偶然によって分配される。「よい国籍」を持つのはいわば「よい両親」を持つようなもので、生誕時点で宝くじに当たるのと同じである。人間が平等であるべきだという原則に照らせば、これは貴族制にも等しい甚だ不条理な仕組みと考えるしかない。

国籍を売買すれば、そうした不条理を緩和できるかもしれない。カネを稼ぐには個人の才覚が関係するし、国籍を買うのは個人の意思次第だから、生まれながらに国籍が決められるのに比べれば理にかなっているとも言える。また、正々堂々とカネで買えるものなら、危険を冒したり、密航業者に大金を払ったりして不法入国したりする必要もなくなる。価格が十分に低ければ欧米で大問題になっている非正規移民の問題すら緩和できるかもしれない。

国家への愛着などといったものも、単に危険な代物なのかもしれない。愛国心を煽り人々を排外主義に駆り立てた結果が、戦争だったのではないか。たまたま生まれた国家への忠誠を強調する制度こそが様々な病理を生んできたのだから、国家への帰属などはまったく実利的なものにした方が、むしろ望ましいのではないか。国家など地方自治体のような存在になる方がよい。なら国籍などは国内の住民登録のようなものにしてしまうべきではないだろうか。

しかしとりたてて愛国心が強くなくても、国籍を売買することに違和感を感じる人は多いのではないだろうか。実際マルタの場合は国籍取得に居住すらも要件としないとしており、これにはさすがにEUの他の加盟国からも反発が寄せられた。それはなぜなのだろうか?

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