最新記事

経済

アップルショック再び 市場をリードする象徴銘柄の急落が意味するもの

2019年1月4日(金)16時25分

ファンドのロスカット

アップル株の急落で、もう1つ懸念されている波及経路はファンドにある。上昇相場の象徴的存在だったアップルが大幅下落したことで、ファンドのポートフォリオに大きな影響を与える可能性があるためだ。

昨年8月、アップルは時価総額1兆ドルを米上場企業で初めて達成。1980年の上場からの株価上昇率は、約5万%に達するなど上昇相場の象徴的存在だった。当時は「最も過小評価されている銘柄のひとつ」との声さえ出ており、昨年10─12月期に同社株を買い増したヘッジファンドも少なくない 。

しかし、昨年10月3日に上場来高値233.47ドルを付けた後に急反落、ちょうど5カ月後の今年1月3日までに高値から39.1%の大幅下落となっている。

米著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの株価は、3日の終値で、前日比5.49%の急落となった。同社はアップルの発行済み株式総数の5.32%を保有する世界第2位の株主だ(1位はバンガードで7.14%)。

同水準に基づくと、バークシャーが保有するアップル株の価値は、9月末時点の576億ドルから360億ドル以下に減少した計算となる。

「アップルは単なる1つの株ではない。波及効果が大きく、アップルが下げれば、他の複数の株が下がる。ファンドはロスカットによる売りに回り、株価が下落。株が下がれば、また売らなければならないという悪循環に陥ろうとしている」とスプリングキャピタル社長の井上哲男氏は指摘する。

政策対応は歯止めとなるか

今の相場は、当局の政策対応を待つ「催促相場」とも言われる。実際、市場では「FRB(米連邦準備理事会)が利上げ停止、もしくは利下げに転じれば、マーケットは好感し、下げ相場の転換点になる」(外資系証券ストラテジスト)との見方は少なくない。

実際、米国の長短金利が逆転(逆イールドカーブ)したケースをみてみると、金融政策の転換などで、いったん株価は上昇する場合が多い。

しかし、今回のiPhoneなどの需要減退が、米中貿易戦争を起因としたものならば、金融緩和などの政策対応がどの程度の効果を持つかは不透明だ。

市場では「米中貿易戦争の本質は、覇権争い。これは金融政策が転換しようと、トランプ大統領が交替しようと変わらない。決着がつくまで企業は投資を控えるだろうし、マーケットも上値が重くなるだろう」(外資系証券の営業担当幹部)と、悲観的な見方も増えている。

日本は年間約6兆円とアップルの自社株買いに迫る規模のETF買いを続ける日銀の存在がある。しかし、世界的な景気減速、日本以外の金融緩和転換の可能性と、世界の景気敏感株と位置付けられ、円高に弱い日本株には不利な状況だ。日本時間4日午後3時時点のアジア市場で、一番下げているのは日本株となっている。

ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「世界の耐久財需要が落ちている。政策転換でいったん米株は戻ったとしても、企業業績を回復させるのは難しい。日本株は米長期金利低下による円高で苦しくなるだろう。政策対応の余地は乏しいが、まずは、日銀が強気な景気認識を変える必要があるのではないか」と指摘している。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

[東京 4日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争

ワールド

ウクライナ南部ガス施設に攻撃、冬に向けロシアがエネ

ワールド

習主席、チベット訪問 就任後2度目 記念行事出席へ

ワールド

パレスチナ国家承認、米国民の過半数が支持=ロイター
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中