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捕鯨

IWC脱退で問われる「捕鯨国」日本の説明力

2019年1月10日(木)17時25分
佐藤年緒(環境・科学ジャーナリスト)※時事ドットコムより転載

和歌山県太地町にて2008年撮影 Issei Kato-REUTERS

「保護」か「商業捕鯨再開」か。日本政府がIWC(国際捕鯨委員会)からの脱退を決めたことで、長年続いた政治的な対立に終止符を打つことができるだろうか。IWCの舞台を離れても、この対立の間に横たわる「動物の管理」をめぐる欧米との認識の溝を、あらゆる場で埋める日本の努力や説明力が問われている。

「持続可能な利用」の機能停止

IWCは、もともと「鯨類(げいるい)の持続的な利用」のルールを決める目的で設立された国際機関である。「反捕鯨」つまり捕鯨そのものを認めない国が多数を占めた段階で、この機関は物事を決められない機能不全状態に陥った。「脱退」は理屈の上では筋が通るように見える。確かに、これまでIWCの舞台裏で、双方が多数派工作のために駆け引きを繰り広げ、対立の深層に踏み込めないままに、上げた拳を下ろせぬままの戦いが続いていた。

対立の深層をたどると、例えば1980年に長崎県壱岐で漁民が魚を食い荒らすとして捕獲したイルカを米国の環境保護運動家が捕獲網を切って逃がした「網切りケイト事件」も同じであった。「イルカ裁判」にまで発展したが、当時、取材した筆者から見れば、クジラやイルカを「知能が高く、海の人間」とみる欧米人の根底にある動物観との確執に変わりない。

野生動物と家畜の違いがどうあるのかを含め、「動物と人間との関係」が問われ続けている。最近は「残虐な飼い方や殺し方」を問題にする欧米の動物愛護の考え方「アニマル・ウェルフェア(動物の福祉)」の潮流もある。対立の背景にある欧米の動物保護思想の違いこそ、冷静に分析・理解する必要があろう。

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映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』の佐々木芽生監督=2018年5月、科学ジャーナリスト賞贈呈式で(筆者提供)

海外のメディア戦略に翻弄されて

捕鯨問題の構図を理解する上でお薦めしたい映画がある。国内の捕鯨の町の一つで、欧米の環境保護団体による攻撃の的になった和歌山県太地町の動きを追ったドキュメンタリー映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』(2017年発表)である。監督・製作は、ニューヨーク在住の佐々木芽生(めぐみ)さん。太地町に海外から続々とやって来る反捕鯨活動家と混乱する漁業者ら町の人の姿を丁寧に追った。

この映画の前段には、米国でアカデミー賞を受賞した映画『ザ・コーヴ』(2009年公開)がある。イルカ追い込み漁を続けているその太地町の漁師を「悪」の集団に仕立てたもので、佐々木さんは、『ザ・コーヴ』から受けた衝撃がきっかけとなって、2010年から太地町で取材を続けたのだった。外国人活動家はイルカ漁の現場シーンを撮影しては即刻インターネット交流サイト(SNS)で世界に発信していく。一方、町や漁民の声はなかなか活動家には伝わらない。町のホームページもほとんど更新されないという情報発信の格差があった。

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