最新記事

中国

「平和統一」か「武力統一」か:習近平「台湾同胞に告ぐ書」40周年記念講話

2019年1月6日(日)19時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

2005年、胡錦濤政権の時に「反国家分裂法」という法律が全人代で決議された。

2004年、台湾では総統選のための選挙活動が燃え上がっており、台湾独立を主張する民進党の陳水扁が総統に再選するか否かの瀬戸際で、中国(大陸側)はあの手この手で平和統一派の国民党を懐柔し台湾国民を経済的に誘い込んでいた。しかし、李登輝主催の台湾独立デモに想定を超える100万人以上の参加者が集まるなど、台湾住民の独立意識の高まりに圧倒されていた。

そのため「台湾が独立するなら、それを国家分裂行動とみなして武力を行使する」という「反国家分裂法」を可決したのである。可決した瞬間、「トングォー(通過)!」という議長の声が人民大会堂を揺らし、「さあ、殺戮が正当化されたぞ!」という宣言として、筆者の胸に突き刺さった。それは1948年、国共内戦において中国共産党軍が長春を食糧封鎖し数十万人の餓死者を生んだ時に、長春に向かって進軍する八路軍(中国共産党軍)の写真を後に見たときの痛みを想起させたからだ。

あの時と同じように、台湾国民はこの「反国家分裂法」によって殲滅の危機を迎えているのである。

今年は建国70周年記念でもあり、2020年には台湾の総統選を迎える。

そして何より、習近平の国家主席としての在任中の最後の10年単位の記念日となるだろう。

したがって、「平和統一」ができなければ「武力統一」を選ぶ。

そうしてでも、在任中に「台湾統一」を成し遂げようというのが、習近平の決意だ。

日本は何をしているのか?

この習近平の巨大な野望と決意に対して、日本はどのように対処しているのか?

昨年10月の安倍首相公式訪中に関して筆者が盛んに批判的言説を展開したのは、安倍首相が習近平に「四つの政治文書の原則」を守り「(中国への)協力を強化します」と誓ったからだ。これは即ち「私は喜んで台湾を捨てます」と誓ったことに等しい。なぜなら「四つの政治文書」には共通して「一つの中国」原則(中華民国は存在しないという原則)が明示してある。また「中国に協力する」と誓ったことは、言論弾圧をする中国を認めますと誓ったことにもなる。

中国(大陸側)は今年から、徹底した「餌」を平和統一派である台湾の国民党側と選挙民である台湾国民にばらまき続けるだろうことを、日本は認識しなければならない。

だというのに、安倍首相は(今朝)1月6日のテレビでも、日中が協力し合うことは「日本の国益に適うだけでなく、中国の国益にも適う」として、「中国(北京政府)」に有利になることを、まるで政治業績のように語っていた。公明党の山口代表も日中友好を支え続けてきたのは公明党であるとして、日中友好は「アジアの平和と安定をもたらす」と述べた。

アジアの平和――?

アジアの安定――?

台湾国民を殲滅することが「平和」なのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏のミサイル防衛システムへの関与で調査要請=

ビジネス

丸紅、自社株買いを拡大 上限700億円・期間は26

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中